第36章 這い寄る闇
「----ジニー?」
ミラの声は掠れていた。まさか背後から呪文をぶつけられるとは夢にも思っておらず、しかも相手が大事に思っているジニーだと知れば、動揺を隠せなかった。ジニーの顔は青白く、無表情でミラを見ていた。杖はまだミラを捉え、片方は日記を大事に抱えていた。
「なんで、ジニー…その日記は危険だ。黙って捨てようとして悪かった、けど、そいつ…トムはヤバい。早く、それを渡して」
「----まさか日記を燃やそうとするなんて、やはり君は油断ならないな」
「!」
声はジニーなのに、ジニーらしくない口調にミラは違和感を覚えた。杖に手を伸ばそうとすると、ジニーにまたしても武装解除の術を受け、ミラの杖はジニーの手に渡ってしまった。
「アンタ、誰だ?」
暖炉の近くにいるというのに、ミラの体は全身に鳥肌が立ち、ここから逃げなければいけないと、強い警戒音が頭の中で鳴り響いていた。
「勘のいい君なら、僕が誰か分かっているのでは?」
「----ト、ム?」
名前を呼ぶと、無表情だったジニーの口元がわずかに上がった。ミラは叫ばなければと思った。
「シレンシオ(黙れ)」
息を大きく吸い込んで、「ハリー!」と叫んだ----叫んだはずなのに、自分の声が聞こえなかった。ミラは自分の喉に手を当て、声を出そうとしたが、声は一向に聞こえない。
「インカーセラス(縛れ)」
シニーの杖から縄が飛び出すと、縄はミラ目掛けて飛んできた。逃げる暇もなく、ミラは縛り上げられ、暖炉の前に芋虫のようにドサりと倒れ込んだ。
「ジニーから、君は男子よりもケンカが強いと伺っている」
薄笑いを浮かべているジニーは、倒れているミラの前まで来ると、膝をついてミラの顔を覗き込むように見つめた。ミラはジニー、もといトムを睨み付けた。ジロジロと顔を見られ、嫌悪感しか感じなかったからだ。