第31章 狂ったブラッジャー
呪文はブラッジャーの横を掠めただけで当たらなかった。ハリーは朦朧とする意識を振り絞りながら、なんとか体を転がして、ブラッジャーの上から突進を避けた。ドゴン、という重い音が地面に当たる音が響き、ミラは浮き上がってきたブラッジャーにもう一度呪文を放つも、素早く上に上がり、当たらなかった。
視界も悪いく、全速力でかける中、ブラッジャーに呪文を当てるには至難の技だった。走っているせいで、杖の先がブレて、狙いがうまく定められない。悪態をつく時間すら惜しいとすら思った。
あともう少しでハリーの元にたどり着こうとした時、ブラッジャーがハリーの真上から落ちてきた。ハリーの頭を狙って落ちてくるブラッジャーに、ミラは「ハリー!」と叫びながら走った。ブラッジャーに魔法を当てることを諦め、一心にハリーの元へ走ったミラは、無意識に左手を突き出していた。
「止まれっ!止まれっ!」
ブラッジャーがハリーの頭に直撃する姿が脳裏に浮かび、ミラの心臓は一気に冷えた。キーンと耳鳴りが聞こえ、走りすぎて痛てうるさい心臓や、雨や周りの声も、何もかも聞こえなくなった。
ブラッジャーがハリーの頭上で、ブルブル震えながら止まった。ハリーの背後まで来たミラは、息を乱しながらも、空中に止まっているブラッジャーに集中して近付いた。ブラッジャーに向けている左手が、ブラッジャーを止めているのだと感覚でわかり、ゆっくりと上へあげて行った。
そして、右手に持っていた杖の先でブラッジャーを向けた。
「やっと…止まったな……レダクト!」
バアン、と大きな音が響き、ブラッジャーは粉々になって跡形も無くなった。雨の音がまず耳に入り、その後で歓声や人の声が聞こえるようになってきた。ミラはその場に、膝から崩れるように座り込んだ。
まだ耳鳴りが少し聞こえたが、「ハリー?」と、ミラは声をかけたつもりが、視界が狭まり、意識が遠のくのがわかった。