第30章 名前のない関係
「…何でお前がグレンジャーのことで謝るんだ」
「友達だから…」
反吐が出そうだ。
「はっ、随分お優しい考えだな。グレンジャーがお前から謝罪するように言われたのか?」
「言ってないよ」
「らしくないことをするな。そんなもの、なんの意味もない」
本当に時間の無駄だと思った。こんなことなら、初めから来るべきではなかった。掴まれた手を振り解こうとすると、グローヴァーはまだ手を離してくれない。
「なんだ」と、鬱陶しいなと思ってアイツを見ると、またアメジストの目と目が合った。
「ドラコの言う通り、本当はハーマイオニーが謝るべきだと思うよ。でも、ドラコだって『汚れた血』って言ったこと、謝ってほしい--なんともなさそうにしてたけど、絶対傷ついたと思う…それに、ドラコにそんな言葉、使ってほしくない…」
必死なのか、掴まれている手に力がこもっているのがわかる。
「!」
それより、コイツ…自分の目が潤んでいることに気が付いているのか?嫌でも去年の記憶が引っ張り出される----ウィーズリーの母親からもらったセーターを貶した時だ----その目を僕に向けるな----僕が全部悪いような、責め立てられる気分になって、居心地がよくない。
あの時の僕はおかしかったんだ、じゃなきゃこんな親から捨てられるような奴に、僕が謝ることなんかなかったんだ。早くこの場から離れなければ----そう思って手を振り払いたいはずなのに、振り払えない自分に心底嫌気が差す。
「私には、純血主義とか家柄のこともよくわからないけど、こんなことでドラコと喧嘩したくない!それに私----」
ほら見ろ、わかっていただろう、コイツが真っ直ぐぶつかって来るくらい。
「----わかったから、手を離せ」
その目を見続けていると、またおかしくなりそうだ。
コイツも冷静を取り戻したのか、手の力を抜いて僕の手を離した。何か言いかけていたが、グローヴァーは口を閉ざしてしまった。真っ直ぐ見ていた目も、気まずいのか逸らされた。僕が何も話さず見ているせいか、グローヴァーはますます気まずい顔をして困っているように見えた。
コイツにも気まずいと思う感情があったことにビックリだが、僕と喧嘩したくないだって?