第30章 名前のない関係
談話室に置かれた時計が、もう少しで6時に針を刺そうとしていた。
「…」
今日の授業でもらった課題を進めていたが、脳裏にグローヴァーがチラチラと思い浮かんで、集中にかけていた。そのせいで顔が険しいのか、クラッブとゴイルが、いつもは宿題の質問をしてくるくせに、やたら少ない。
もう二時間以上は経っていて、談話室から空は見えないが、外も暗くなり始めている頃だ。もう来ないとわかって帰ってるはずだ、気にするだけ無駄だ--------。
「あとで大広間で会うぞ、夕飯の時間には来い。それから、僕の荷物は部屋に戻しといてくれ」
「あ、うん…」
「わかった…」
僕は荷物をカバンにまとめて、椅子の上においた。頭の中で何度も馬鹿馬鹿しい、居るわけがないと自分に言い聞かせているのに、足は勝手に裏庭に向かっていってしまう。
外に出れば、案の定夕方から夜になりかけていて、冷たい風が吹いていた。
グローヴァーがいた場所まで、今度は足音など気にせず突き進んでいくと、夕暮れの空をぼんやりと見上げている人物がいた。最初見た時は上衣を着ていたはずが、暑かったのか、上衣がカバンの上に置かれていた。
なんでいるんだ、と僕は逆にイライラしてきた。
「----なんだ、こんなところにわざわざ呼び出して」
しかし僕は演じなければいけない。一度様子を見に来て帰ったなどど知られれば、文句を言われかねない。さっさと要件を聞いて帰ろう、そう思っていると、グローヴァーは驚いた顔で僕を見ていた。どうやら向こうも、本当に僕がくると思っていなかったみたいだ。
「ドラコ!」
「!」
----は?こいつ、何で嬉しそうなんだ?この間は僕のことを”マルフォイ”と名字呼びしていたくせに----やっぱり罠か何か?
座っていたグローヴァーは、膝の上に乗っていた本も気にせず立ち上がり、僕に近付いて来る。