第30章 名前のない関係
「痛っ」
突然、額にピシっと痛みが走り、ミラは慌てて目を開けて額に手を当てた。
「え…ど、ドラコ…?」
ミラは困惑した顔でドラコを見ると、ミラの困惑ぶりに満足したのか、ニヤッと笑っていた。
「僕をそこら辺の奴らと一緒にするな」
そう言って、ドラコはミラに背を向けて歩き出した。
「ドラコ!」
ハッとしたミラが、大声でドラコを呼んだ。ドラコは足を止めて振り返った。
「私、ハーマイオニーにも話してみるから!あと、今度のクィディッチ、がんばれ!」
ドラコと距離ができていたのと、もう外はかなり薄暗くなっていたせいで、ドラコの表情はよく見えなかったが、「ああ」と、もう少しで風にかき消されそうな声が聞こえた。
『つまり、紳士的な対応をされて舞い上がっていると』
その晩、ジニーに日記を借りて、トムに報告した。パーシーに言われたこともあり、一応ジニーの目が腫れていないかこっそりチェックしたが、大丈夫そうでミラはホッとした。
起こったことを勢いのまま書いてしまったせいか、しばらく日記を書いていなかったせいか、トムの反応は冷たかった。
『舞い上がってなんかいない!』
『それにしては随分、君は嬉しそうだ。何も解決していないように思うが』
確かにトムの言う通りだった、根本的なことは解決していない。ドラコもハーマイオニーも、お互い謝ってもいなければ、顔すら合わせていないのだ。
『それに、そのスリザリン生は君のことを許すと言ったのか?』
確かに、ドラコは一言も許すとも言っていなかったことに気が付いたミラは、パンパンに膨れた風船に針を刺したように、一気に気分が萎んでしまった。
『…言われてない』
『でも謝ることはできたんだろう?それとも、やっぱりそのスリザリン生は君にとって特別なのかな?』
本当にトムの言う通りだ、とミラは思った。でも、あの時確かにミラはドラコに何かを伝えようとしていた。