第30章 名前のない関係
「ドラコの言う通り、本当はハーマイオニーが謝るべきだと思うよ。でも、ドラコだって『汚れた血』って言ったこと、謝ってほしい--なんともなさそうにしてたけど、絶対傷ついたと思う…それに、ドラコにそんな言葉、使ってほしくない…」
ミラはドラコの手を強く握りしめた。
「!」
「私には、純血主義とか家柄のこともよくわからないけど、こんなことでドラコと喧嘩したくない!それに私----」
それ以上言葉が出なかった、いや、何を言っていいのかわからなくなったのだ。続きが思いつかず、ミラの声はだんだん小さくなっていく。
「私…」
「----わかったから、手を離せ」
「あ、うん…」
逃がすまいとドラコの手を強く掴んでいた手を、ミラは力を緩めて、ドラコの手を離した。ドラコは大きなため息を吐いただけで、去ろうとはしなかった。そのことにミラは内心ホッとしたが、気まずそうにドラコから目を離した。
「…」
「…」
また沈黙した。ただただ気まずい空気が二人の間に流れていた。ミラはまだドラコが怒っていると思っていた。
「…やり返していいよ、思いっきり殴っちゃったし…」
「……は?」
ドラコは信じられないと言う顔でミラを見た。ミラは手の力を抜いて、いつでも殴られてもいいように「ん」と、言って左の頬をドラコに差し出した。
「何してるんだ」
「何って、やり返さないと気が済まないじゃん。大丈夫、慣れてるから」
「何言って…」
ドラコの顔は青ざめていた。ミラの言ったことも信じられなかったが、ミラが無防備に受け入れようとしていることにも驚いた。
「----目を閉じろ」
ドラコが静かに言うと、ミラは素直に目を閉じた。殴っていいと言った手前、視界が見えないのは少しだけ怖いと感じた。しかし、いつまで経っても左の頬に痛みがやってくることがない。時間が経てば経つほど、不安が大きくなっていった。