第30章 名前のない関係
頭から氷水を浴びたみたいに、ミラの頭は冷静になった。それと同時に、体の熱も消えていくようだった。自分たちは喧嘩していたと、現実を急に突きつけられた。打って変わって静かになったミラに、ドラコは怪訝な目で見ていた。
「…」
「…」
完全に沈黙してしまった。風が夜を知らせる冷たい空気が二人に緩やかに吹きつけた。ミラは何を言えばいいのか完全にわからなくなっていた。
「なんだ、僕をからかうために呼んだのか?僕は忙しんだ、そんなインチキ臭い奴の本を読んでいるようなお前と違って」
と、ドラコはミラが落とした、本の表紙に写った写真のロックハートを心底嫌な目で見て言った。
「二度と僕の名前を呼ぶな、馴れ馴れしい」
ドラコはミラに背を向けて歩き出した。ミラは心臓に氷柱が刺さったかのような衝撃を受けた。
「ど、ドラ---待って!!!」
ミラは慌ててドラコを追いかけた。空いていたドラコの右手を両手で取り、行かないように引っ張った。
「離せ、僕に触るな----」
「ごめん!!」
ミラは不機嫌に顔を歪めている薄いグレーの瞳をまっすぐ見て叫んだ。
「殴って、ごめん…あの時カッとなっちゃって……それに、色々怒ってた、し…」
「…」
「それに、笑ってごめん…私、ドラコがお金の力でシーカーになったとか思ってない…あの時、そこまで考えてなくて…ハーマイオニーが酷いこと言って、ごめん…」
最後はボソボソ話すように、ミラの声は小さくなっていた。
「…何でお前がグレンジャーのことで謝るんだ」
全くその通りだ。
「友達だから…」
「はっ、随分お優しい考えだな。グレンジャーがお前から謝罪するように言われたのか?」
「言ってないよ」
「らしくないことをするな。そんなもの、なんの意味もない」
ドラコはミラに掴まれた手から逃れようと、振り解こうとしたが、ミラはさらに手を強く掴んだ。
「なんだ」、と鬱陶しそうな顔でミラを見た。ミラは負けじとドラコを見返した。