第30章 名前のない関係
来てくれなければ、謝ることもできない。今日の昼食時に、学校のフクロウに手紙を届けるようにお願いしたが、手紙の中身も見てもらえなければ、ドラコはミラがここで待っていることを一生知りもしないのだ。
魔法薬学の授業で、もう一度組まないかと話しかけることも考えたが、ポリジュース薬で『継承者』かどうか聞き出そうとしている手前、ハリー、ロン、ハーマイオニーと別行動を取るのはいいことではない気がした。
もうミラにはこの手段しか残されていなかったのだ。しかし、ミラはうまくドラコに謝れるか不安だった。何故なら、大喧嘩した相手に自分から謝ると言うことがなかったからだ。今までは相手のことをどうでもいいと思い、仲良くなる必要はないと切り捨てていた。
トムが言う『何か特別な関係』に、ドラコに何が当てはまるかはわからないけれど、切り捨てれないのは確かだった。
青空だった空が、オレンジと紫色が混じった空に変わっていた。今にも夜の帳が降りそうな空に、ミラはぼんやりと見つめていた。膝の上に置いた本は、開いたままで読む気がしなかった。脱いだ上衣も、肌寒さを感じてそろそろ羽織ろうかと思っている時だった。
「----なんだ、こんなところにわざわざ呼び出して」
ミラはハッと声のした方に見た。ぼんやりしすぎて、誰かが歩いてくる音さえ聞こえてなかったらしい。視界に呼び出した人物が迷惑そうな顔をして立っていて、腕を組んでミラを見ていた。
「ドラコ!」
来てくれるとは思っていなかったが、それでも来てくれた嬉しさに、ミラは顔を綻ばせて立ち上がった。膝の上に乗っていた本はドサっと音を立てて芝生の上に落ちた。無遠慮にドラコに近付くミラに、ドラコは驚いて組んでいた手を解いて後ろに後ずさった。
「さ、さっさと要件を言え!それとも、シーカーの僕を潰して、今度の試合に勝つために呼んだのか?」
ミラはぴたりとその場に止まった。
「ご、ごめん…来てくれると思ってなくて…」