第29章 継承者
「そんなこと、気にしてられなかったわ。ピーブスがあんまりひどいものだから、私、ここに入り込んで自殺しようとしたの。でも、当然だけど、急に思い出したの。私って----私って」
「もう死んでた」
ロンが手助けするようにマートルの言葉を続けると、マートルは悲劇的な啜り泣きと共に空中に飛び上がり、向きを変えて、真っ逆さまに便器の中に飛び込んだ。四人に水飛沫を浴びせ、マートルは姿を消した。
くぐもった啜り泣きがどこからか聞こえ、トイレの配管のどこかでジッとしているようだった。
「ロン、言葉には気を付けなよ」
「君がそれを言う?」
ミラは上着についた水飛沫を払いながら、ロンを非難した。
「あれでも機嫌がいい方なの、行きましょう」
四人は女子トイレから出ると、大きな声が聞こえて飛び上がった。
「ロン!」
階段のてっぺんで、監督生バッジを煌めかせたパーシーが、徹底的に衝撃を受けた顔をしていた。
「そこは女子トイレだ!君たち、一体何を----?」
「女子トイレがどうなってるか、二人に見せようと思って入れたんです」
ミラはパーシーに立ちはだかるように、三人の前に出て話し始めた。
「なんでそんなことを?」
「面白いと思って」
パーシーは顔を顰めながら、ミラを見た。
「とりあえず、そこから離れるんだ」
パーシーは大股で近付いて、腕を振って四人をそこから追い立て始めた。
「人が見たらどう思うかわからないのか?みんなが夕食の席についているのに、またここに戻ってくるなんて----」
「なんで、僕たちがここにいちゃいけなんだよ」
「ロン」
と、ロンが熱くなって言い返した。立ち止まって、パーシーを睨みつけていた。ミラはロンを止めようとしたが、もう遅かった。