第29章 継承者
「それは…大変だったね…」
ミラはロンに背を向けて、蜘蛛を見上げて笑いを堪えようとしていた。隣にいるハーマイオニーも、笑いを堪えているようだった。
「床の水溜りのこと、覚えてる?あれ、どっから来た水だろう…誰かが拭きとっちゃったみたいだけど」
ハリーがこれ以上ロンが怒らないよう、話題を変えた。
「それなら、この辺りだった」
気を取り直したロンが、濡れていたであろう床を指さした。
「この扉のところだ----げ、ここ女子トイレだ」
ロンが真鍮の取手に手を伸ばしたが、火傷をしたかのように急に手を引っ込めた。
「あら、ロン。中には誰もいないわよ」
「あー…ここあそこか」
ミラは顔を少し引き攣らせてその扉を見た。
「あのうるさい『嘆きのマートル』のトイレだよ、そこ」
「覗いてみましょう」
手掛かりが欲しいとはいえ、ミラはこのトイレには入りたくなかった。しかし、『故障中』と大きく書かれた掲示を無視して、ハーマイオニーが扉を開けて入って行った。
ハリーとロンはもっと嫌な気持ちだろうなと、ミラは思いながら、ハーマイオニーの後に続いた。中は大きな鏡はひび割れ、シミだらけで、その前にアチコリ緑で欠けた石造りの手洗い代が並んだいた。
ハーマイオニーはシーっと指を唇に当て、一番奥の小部屋の方に歩いて行った。
「こんばんは、マートル。お元気?」
ミラ、ハリー、ロンも覗きに行った。嘆きのマートルは、トイレの水槽の上でふわふわしながら、顎のニキビを潰していた。
「ここ、女子トイレよ。そこの二人、女子じゃないわ」
「ええ、そうじゃないわね。私、この二人にちょっと見せたかったの----えーっと、ここが----」
「ハロウィーンの日、何か見掛けなかったか?そこの廊下で猫が襲われたから、それを調べてるだけ」
ミラはハーマイオニーの会話を中断させて、単刀直入に聞いた。
「あの夜、この辺りで誰か見かけなかった?」
ハリーも訪ねた。