第29章 継承者
現場はあの夜と同じだった。松明の腕木に石となったミセス・ノリスがぶら下がってないことと、壁に背にした椅子がポツンと置かれていることだけが、あの夜とは違っていた。壁にはまだ文字が書かれたまま残っていた。
「あそこ、フィルチが見張ってるところだ」と、ロンが呟いた。四人は顔を見合わせると、廊下に誰もいないことを確認した。
「調べるなら今だね」
「ちょっとだけなら悪くないだろ」
ハリーはカバンを放り出して、四つん這いになって、何か手がかりはないだとうかと探し始めた。ミラも壁に書かれた文字に近付いて、ジッと見つめた。
「焼け焦げだ!あっちにも、こっちにも」
と、ハリーは言った。
「来て、これを見て!」
すぐ近くにいたハーマイオニーの呼びかけに、ミラはすぐに駆けつけた。壁の文字のすぐ脇にある窓の、一番上の窓ガラスを指差していて、ミラは見上げた。ハリーもすぐに駆けつけ、ミラと同じように窓を見上げた。
二十匹余りの蜘蛛が、ガラスの小さな割れ目から、先を争って這い出そうとしてた。
「うっわ…気持ちわる」
ミラは眉間に皺を寄せて、吐き捨てるように言った。
「蜘蛛があんな風に行動するの見たことある?」
「ううん、ロン、君は?ロン?」
ハーマイオニーは不思議そうに蜘蛛を見て言った。ハリーは肩越しに振り返ってロンを見た。ロンは三人よりずっと後ろに立っていて、逃げ出したいのを必死で堪えているように見えた。
「…ロン、もしかして…」と、ミラはニヤニヤしながらロンを見た。
「笑いたきゃ笑えよ----僕----蜘蛛が----好きじゃないんだ」
「魔法薬で何回も使ったじゃない」
「死んだ奴ならいいんだ----あいつらの動きが----本当に嫌なんだ」
ハーマイオニーはクスクス笑うと、ロンは二人を睨み付けた。
「理由を知りたいなら言うけど、僕が三つの時、フレッドのおもちゃのほうきの柄を折ったから、アイツったら僕の----僕のテディベアをバカでかい大蜘蛛に変えちゃったんだ。想像してみろよ、最悪だぜ。クマのぬいぐるみを抱いてるときに、急に足が生えてきて、それで----」
ロンは身震いして言葉を途切らせた。