第16章 試される勇気
薄暗い部屋で棍棒を探すのは中々骨が折れた。何回か顔に当てていた魔法も、時間が経てばやっとトロールも理解したのか、腕で塞がれるようになってきた。トロールの巨大な腕の振り払いをなんとかギリギリで交わし、次は足元に呪文をぶつけた。
足元に呪文を向けているおかげか、薄暗い部屋の床が一瞬だけ見えた。
「----あった!」
部屋の隅に転がっていた巨大な棍棒を見つけると、ミラはトロールに気付かれないよう注意しながら、「ウィンガーディアムレヴィオーサ」と唱えた。棍棒はトロールの後ろで静かに浮き上がり、ミラは慎重に杖を上へと上げていく。
しかし、浮遊呪文を使っているせいで他の呪文が使えず、これまで回避できていたトロールの突進を、今度は危うく当たりそうになった。足がもつれ、ミラは床に倒れてしまった。
素早く起きあがろうと上体を起こしていると、巨大な手がミラの体を全て握り込んだ。
「うっ!!!」
圧迫される体に、ミラは必死に息を吸い込んだ。ほとんど自分の体を握り込まれているせいで、手からはみ出ているの頭ぐらいだった。トロールはやっと捕まえたミラを自身の顔の前に持ってくると、顔を覗き込んできた。
吐き気のするように匂いが強まり、ミラは顔を更に顰めた。
「離せっ…デカブツ……その顔、あのおばさんにそっくりで…吐き気が…する」
ぺっ、と近づけて来た顔に唾を吐きかけると、流石のトロールも怒ったのか、握りしめる手を強めてきた。
「ううっ!!!」
骨が折れる!と、ミラは思った。
「は、ハリー…」
ハリーはスネイプの所までたどり着けたのだろうか?締め殺されているにもかかわらず、ハリーのことを心配していた。このままま握り殺されてしまえば、ハリーやハーマイオニー、ロンだって泣いてくれるだろうか?
せっかくゴミのような施設から一時ではあるものの抜け出せて、ハリーと楽しい時間を過ごせた。新しい友達もできた。ハーマイオニーは人生初めての女の子の友達だ。ロンとは皮肉を言い合える仲だ。
(----死にたく、ない----)