第16章 試される勇気
ゲームが進むにつれ、どちらの駒も大分取り合った。ほとんど互角の駒を取り合っていると言ってもよかった。
「ロン…あなたもしかして…」
ミラは青い顔でロンを見た。ロンは振り向かなかった。
「…詰め近い」
「ロン!」
ミラは声を荒げてロンの名前を呼んだ。突然ミラが叫んだことに、ハリーとハーマイオニーはびっくりして二人を交互に見た。
「どうしたの?」
ハーマイオニーが声をかけたが、ミラもロンも話そうとしなかった。むしろミラはロンを睨んでいて、ハーマイオニーのことも気にしてもいなかった。
「この手しかない…これしかないんだ----ぼくが取られるしかないんだ」
「駄目だ!」
「駄目よ!」
ハリーとハーマイオニーが叫んだ。
「これがチャスなんだ!犠牲を払わなくちゃ!」
「他の手だってあるはずだ、ロン!」
「それじゃあ君が取られる!時間がない今、この手が次の扉に早く進めるんだ----それに、ハリーには君が必要だ」
「ロン…!」
ミラは悔しくて眉間に皺を寄せて、ギュッと両手を握り込んだ。ロンの言う事はもっともで、一刻も早くスネイプに追い付かないといけない。もうロンを止めようとは思わなかった。
「ぼくが一駒前進する。そうすると、クイーンがぼくを取りに来る。ハリー、それできみが動けるようになるから、キングにチェックメイトを掛けるんだ!」
「でも…!」
「スネイプを喰い止めたいんだろう。違うのかい?」
「ロン----」
「急がないと、スネイプがもう《石》を手に入れてしまってるかもしれないぞ!」
ハリーも黙り込んでしまった。それしか方法がないとわかったからだ。
「いくよ?」
ロンの顔は青ざめていたが、しっかりとした声で言った。
「じゃあ、ぼくは行く----勝ったらここでグズグズしないで先に行くんだ」
ロンは決心して前に進むと、白のクイーンが飛びかかった。ロンは頭を白い腕で殴りつけられ、床に倒れた。ハーマイオニーは悲鳴を上げたものの、なんとか持ち場に踏み止まった。
「ロン!!!」
ミラは叫んだ----そして、後悔した。あと数手重ねれば、ロンが痛い思いをすることもなかった。それでも、ロンの決意を踏み躙りたくなかった。