第14章 禁じられた森
ハリーの足音も聞こえない。誰も動こうとしない。ミラは自分の背後に何かがいるのだと気付いたが、何故か後ろを振り返ってはいけない気がした。触れているドラコの手から、震えが伝わってきて、ミラの体も震え出した。見てもいないのに、背中から恐怖を感じる。
ジュル、ジュル、何かが生き物の血を啜っているような音が、静かな森ではよく聞こえた。
「う、あ…ぎゃああああああああ!!!!!!」
途端、左手を強く引かれてミラは引っ張られるまま、絶叫しているドラコに続いた。逃げなくちゃ、逃げなくてはいけない!振り返っちゃだめだ!ただそれだけが頭の中を支配していた。
五十メートル、いや百メートルは走っただろうか。それ以上かもしれない。ミラは不安を感じながらも、振り返った。
「まっ…待って!待ってドラコ!!!ハリーがっ!!!!」
ミラは引っ張られている左手を、力の限り止まるように引っ張った。後ろに引っ張られたドラコはそれに気が付き、走っている足を緩めた。後に続いてきたファングも二人の横につくと、乱れた息を整えようとしていた。
「ポッターが…どうした…」
「いない…ハリーがいない…戻らなくちゃ!」
「正気か!?ぼくは嫌だぞ!化け物がいたんだぞ!」
先程の出来事を思い出したのか、まだ繋がっている手から大きな震えが伝わってきた。
「それでも行かなきゃ…は、ハリーに何かあったら…わたしは、戻る…だからドラコはこのままファングと一緒にハグリッドのところへ行って!」
スルリとドラコに掴まれていた手を抜き取ると、ミラは元来た道を走り出した。
「おい!行くな!グローヴァー!!!」
ドラコの制止の声を振り切り、ミラは自分が今出せる最大のスピードでハリーの元へ戻った。--もしかしたら転んだのかもしれない。そう、ちょっとそこらへんで転んだに違いないんだ!
「ハリー!ハリー!!」
ミラは声を上げた。進めど進めど、転んだハリーの姿が見えなくて、震え出しそうな足に力を声めて走り続けた。もうほとんど逃げて来た場所に辿り着いた時、地面にうずくまっているハリーと、フードに包まれた影が、ハリーに迫りよっていた。
「やめろっ…やめろよおおおおおお!!!!!」
ミラは杖を振り上げた。