第4章 お稽古と呼吸の技
まだまだ実弥の温かさを感じていたい風音であるが、子供の先を見て何度も死ぬほどの痛みを味わい、多くの血を流した体は休息を欲しているようで、瞼が重くなり開くように意識しても言うことをきいてはくれない。
「実弥さん……私ね、実弥さんが……」
……力尽きてしまった。
まぁ……何を続けたかったのかは何となく実弥とて予想はついたので、特に先が気になることはなかった。
「そんな慕う要素あったかァ?お前、基本的に俺に怒鳴られてばっかだっただろ……変な奴」
そう言いつつも眠りについた風音を離すことはせず、何だったら風音の温かさが心地よいというように金の色が目立ち始めた頭に顔を埋めた。
「……これ、何て拷問だよ。はァ……無知って怖ぇなァ」
どうにか煩悩を追い出し、しのぶにこの姿を見せるまいとの気持ちだけで一晩を過ごして、日が高くなった頃合いを見計らって実弥は自身の屋敷へと戻り体を休め、風音が山に置いてきた荷物の回収に向かった。
あれから三日間、風音は蝶屋敷のベッドで眠り続けた。
その目を覚ました時間も夕刻だったので任務に赴いている実弥やしのぶの姿があるはずもなく、代わりに薬草やらでパンパンに膨らんだ袋が枕元に圧倒的な存在感を醸し出して鎮座していた。
「実弥さん、わざわざ取りに行ってくれたんだ。しかも重いのに……道具まで持ってきてくれてる。……確か私の血って鬼が嫌がってたよね?何か気持ち悪いけど、私の血で鬼を倒せる薬作れないかな?」
よりにもよって実弥としのぶが不在の時に目を覚ましたことにより、風音の暴走を咎め止める術はない。
そんな風音はベッドから抜け出して、部屋に置かれている椅子に座って膳の上に荷物を広げて逡巡。
「……そもそも体に毒なものは入ってるわけないか。実弥さんが事前にしのぶさんに中身を確認してもらってるだろうし……それなら軟膏に混ぜてみる?えぇ……私の血を混ぜるとか少し抵抗が」
「とんでもない言葉が聞こえたのだが!風音、目を覚ましたのか?」
とんでもない呟きは部屋の外に漏れ出ていたらしく、部屋の前を偶然通りがかった人物に聞かれてしまった。
そしてその人物は風音もよく知り、数少ない風音が心を開いている人物……杏寿郎だろう。