第27章 そよ風と木枯らし
「っーーー!!」
生きている。
自分と同じく全身傷だらけではあるが、確かに目の前に存在している。
自分自身も怪我をしているのに、こんなところで、こんな格好で寝ちゃ駄目だろと思うものの、確かな温かさに実弥の目元が柔らかく弧を描く。
「風音、起きれそうかァ?」
痛む体を気にもせず寝返りを打って風音の方に体を向け、左手で優しく頭を撫でてやる。
すると、ゆっくり、ふわふわと瞼が上がっていき、翡翠石のような瞳が僅かに顔を見せた。
どうやらまだ完全には覚醒していないようである。
「風音」
半覚醒状態の風音の名前をもう一度呼ぶと、ようやく翡翠石のような瞳が実弥の姿を映した。
目が合った瞬間、風音の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ち、頬を伝っていく。
「実弥……君……目、覚ましてくれたの?夢じゃない?」
「夢じゃねェよ。ほら、手握り返してんだろ。風音」
そしてもう一度名前を呼ぶと、風音は握り締めたままの実弥の手を頬に当てて俯いた。
「良かった……本当に……実弥君や柱の皆さんも誰も目を覚まさなくて……このままだったら……どうしようって」
さらりと肩から流れ落ちた朝焼け色の綺麗な髪は夕陽に照らされ、いつもより濃い色に輝いている。
それでも綺麗なことには変わりなく、意識を失う前に目にした血の色が見当たらず、心の底から安堵した。
「約束しただろ?お前の前からいなくならねェって。だが……悪ぃな。心配かけちまった」
握り締められたままの手はもちろん、風音の体は小さく震えており、どれほど心配していたのか、どれほど寂しい思いをしていたのか、どれほど怖かったのかが実弥に伝わってくる。
悪い事をしたと思いつつも、声を出さず涙を流し続ける姿に庇護欲が沸き、体の痛みも忘れて起き上がり、風音の頭をふわりと包み込んだ。
「ほら、泣きやめ。お前も全身怪我だらけじゃねェか。こんなとこで寝てたら、治るもんも治らなくなっちまうぞ」
実弥が起き上がっていい状態ではないと理解している風音は慌てて離れようとするが、柔い力で包み込んでくれているはずなのに、何故だか不思議と抜け出すことが叶わない。