第4章 お稽古と呼吸の技
鬼も同じ言葉を言っていたが、稀血など聞いたことのない風音は首を左右に振って実弥の隊服の胸元を握りしめ、ゴソゴソと温かさを求めてにじり寄っていく。
それを拒むことなく眺めた後、実弥は自身の特殊な体質について説明を始めた。
「俺は稀血っつって、鬼が大層好む血を持ってんだ。しかも稀血の中でも特殊でなァ、俺の血の匂いを嗅いだだけで鬼は酩酊状態になっちまう。あの鬼がいきなり地面に足着いたろ?」
泣き続けているので返事が出来ないようだが、話はしっかり聞こえている風音の頭が小さく上下に動いた。
その頭を撫でながら実弥は続ける。
「あれは俺の血を嗅いだからあぁなった。お前を保護してからはあんましねぇようにしてたが、俺は基本的に酩酊状態にさせてから鬼の頸斬ってんだ。だからお前が気に病む必要なんてねェんだよ。泣く暇あんならもう少し寝てろ、お前も軽傷じゃねぇんだからなァ」
そう言われて初めて自分でつけた腕の傷が痛み出したが、今は腕の傷より罪悪感が圧倒的に勝り胸の痛みが酷い。
「私の傷こそ私が自分で付けたんです。痛かったけど……あ、あの……実弥さん……」
今度は何を思いついたのやら……僅かに震えていたはずの体はガクガクと大きく震え、少し距離を取ろうとモゾモゾと動き出した。
「引っ付いたかと思えば離れんのかよ……何だァ?今度はどんなしょうもないこと思いついた?」
傷のこともそうだが、風音にとって今思い付いたことはこれから実弥といる上で何より懸念される事柄だ。
離れようとモゾモゾしても力で押し負けたので、離れることを諦めおずおずと実弥を下から覗き込む。
「私の匂い……嫌な匂いですか?もしかして今までも今も嫌な匂いなのに……我慢してくれてますか?」
何故か先ほどより涙の量を増やしてしまった風音に溜め息を零し、そんなことはないと言うように背に回した腕に力を込めた。
「鬼に何て言われたか知らねェが、嫌な匂いなんてするかよ。俺は思ったことは口にする質なんでなァ、嫌な匂いするならとっくに言ってるわ。……そんな事で泣いて体力使ってんじゃねェよ。ほれ、もう寝ろ。寝るまでこうしててやるから」