第26章 宵闇と朝焼け
どれくらいの時間、炭治郎を拘束し続けたのか分からない。
皆それほど必死で、そして願っていた。
炭治郎の最愛の妹である禰豆子が到着し、炭治郎の意識を引っ張り戻してくれることを。
風音は何が起こっているのか分からない状況だったが、実弥や柱たちの表情、炭治郎に語り掛ける言葉で理解した。今何が起こっていて、皆は何を願っているのか。
そして風音の願いも皆と重なる。
「お兄ちゃん!」
少女の声が辺りに響き渡ると、全員の力が弱まり、それに伴って炭治郎の抵抗する力も更に弱まり、表情が幾分か和らいだ。
そして少女、禰豆子が炭治郎をふわりと抱き締めた瞬間、完全に体から力が抜ける。
(もう……大丈夫。もうすぐこの子の声に導かれて、戻ってくる。お父さん、お母さん。悪い鬼が居なくなったよ)
安堵と共に訪れたのは、体中の酷い痛みと倦怠感。どうにか踏ん張ろうとしたものの、体幹を保つことが出来ず、諦めて地面に倒れ込もうとした。
しかし地面の硬さや冷たさが襲ってくることはなく、柔い力で優しく抱き寄せられた。
「無茶ばっかしやがって。塵屑野郎が消えたとしても、お前の父ちゃんと母ちゃんに俺が顔向け出来ねェだろ。風音をこんなボロボロにしちまったら」
朦朧とする意識の中、実弥の言葉を耳にして思い出した。
先ほど不思議な世界で再会を果たした両親の笑顔と、別れ際の光景を。
「お父さんとお母さんがね、行っておいでって……言ってくれたの。絶対に守るから、行っておいでって。それでね……」
実弥の優しい表情が嬉しいはずなのに、両親との別れ際の光景が胸を締め付け涙が溢れる。
「そうかい。それでその後、なにがあったァ?」
風音と実弥のすぐ近くで、炭治郎の声が聞こえた。ようやく皆の悲願が達成したのだろう。この声は二人の耳に確実に届いた。
そして皆の再度の歓声を耳に入れつつ、実弥は悲しみに表情を歪める風音に耳を傾ける。
「私、今すごく嬉しい。なのに、どうしても悲しくて寂しくて……本当は泣いちゃ駄目なんだって、分かってるんだけど……お父さんとお母さん……火に包まれて……消えちゃった」
思ってもみなかった言葉に、風音を抱き寄せる実弥の力が強まった。