第26章 宵闇と朝焼け
実弥を含め、炭治郎を拘束する皆がぎょっとしたのも束の間。すぐ後には風音に声を掛けてやりたくても、そんな暇すら与えられない状況となった。
風音は何が何だか分からない。
柱の皆は事前情報を風音から与えてもらっていたので、今するべき事を理解出来ているし、どうなるか分かっている。
ただこのまま炭治郎を、望んでいないのに鬼舞辻に見初められて、鬼と化してしまった炭治郎の動きを封じることが何より優先される。
炭治郎は、生まれ持った体質的に鬼となることに適性があったのだろう、太陽に炙られ苦しんだのは一瞬で、太陽を克服してしまった。それ故に、周りへの被害が最小となるよう、足止めしなくてはならないのだ。
満身創痍、疲労困憊の皆は拘束しては吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたかと思うと、炭治郎から攻撃を放たれ、避けては地面を転がるを繰り返す。
皆を見て今するべきことを風音も懸命に全うしているところである。
(どうしてこの子が鬼に?実弥君は……全力で鳩尾殴り付けてるや……私に出来ること。力が弱くても記憶がなくても出来ること……あ、出来ることあるかも!)
自分の名前や両親のこと、実弥との今までの全てを思い出した。それ以外は記憶に靄がかかったように欠如しているが、両親以外で初めて、実弥が受け入れてくれた能力のことを思い出した。
「実弥君の先を少し借ります!」
「あ"ぁ"?!んな事したら、また記憶無くなっちまうだろうがァ!」
「たぶん消えない!鼻から血は出ると思うけど、お母さんとお父さんが守ってくれてるから!」
風音が言っている意味を理解出来るのは本人のみ。風音の両親は既にこの世に存在しないので、側で寄り添い守ってあげることなど出来ない。だが、風音の言葉は力強く、不思議と嘘を言っているようには、聞こえなかった。
「血は出んのかよォ!次に俺のこと忘れてみやがれ……泣いても頬引っ張んのやめねェぞォ!」
「分かった!」
やけに自信満々の返事を聞いた後、風音のことが気になるものの、実弥は炭治郎に意識を戻しては殴りつける……
そんなことを繰り返していたが、数十秒後に炭治郎の動きが弱まった。きっと風音が先の光景を見せているからだろう。
あとは拘束を試みつつ、一人の少女の到着を待つだけだ。