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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


「どうしたァ?傷が痛むのかァ?」

「平気だよ。実弥君……ごめんね。心配……かけて。鬼舞辻は……どうなった?」

自然と風音の口から名前を呼ばれた。
風音の記憶に自分が戻ったことは嬉しく思うが、今は涙を流す理由を聞いてやりたいのに、返ってきたのは風音らしいものであった。
実弥は自身の涙を拭うことをせず、知りたいことを確認させてやるため、傷が痛まないように、そっと風音の上半身を抱き上げた。

「謝んなァ。ほら、見えるかァ?もうすぐ塵屑野郎が塵になりやがる」

風音の意識が飛んだことで心配したにも関わらず、それでも優しく抱き寄せ、知りたいと望んだことを直接見せてくれる実弥の襟元をそっと握りしめる。心身共に、実弥の温かさに包まれながら、眩いばかりの朝日とそれに灼かれ塵と成りゆく者の姿を、実弥と共に目に焼きつけた。

「見えるよ……本当に終わるんだね。あ……実弥君、鬼舞辻が消えたよ」

「……本体は消えたんだがなァ。風音、ここでちょっと待ってろ。まだ終わってねェんだ」

鬼舞辻が消滅したことにより、鬼殺隊の剣士や隠たちが歓声を上げる中、柱たちはなぜか警戒しているように風音には映った。
その理由は元々風音が先を見て本人も知っていたはずだが、全ての記憶が戻っていないため、不安げに瞳を揺らせる。

「ねぇ、実弥君。緑の羽織の子、何かあるの?倒れたのに……拘束されてる」

風音の不安げに揺れる瞳に映ったのは、先ほど警戒を緩めなかった柱たちが日輪刀を鞘にしまい、炭治郎を拘束する光景だった。柱たちは勿論だが、炭治郎も酷い怪我を負っているため、風音自身の記憶が欠如していようと、不安を掻き立てるものである。

目の前の光景に小さく震える風音を実弥は柔い力で抱き締めた後、今は崩れ瓦礫となりかけた壁にもたれ掛けさせてやる。

「心配ねェよ。竈門の妹が来るまで、持ち堪えるだけだァ。ほら、栗花落が薬打ちやがった。風音はここで大人しく待っとけ!」

風音が返事をする前に、実弥も他の柱たちと同じように日輪刀を鞘に戻し、炭治郎の元へと駆け出してしまった。

それを見送った愈史郎は、満身創痍の風音を渦中に戻らせぬよう手首を握ろうとしたが……時すでに遅しだ。
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