第26章 宵闇と朝焼け
悲しげな声音の男性の姿が、ふわりと七尺ほど先に現れた。
功介と呼ばれた男性は、声音と同じく表情も悲しく歪んでいる。
(私と同じ服を着てる。功介さんが言ってた鬼殺隊っていう組織?みたいなところに、私も属してたってことかな?……人を殺めたって言ってるけど……でも)
気が付けば風音は女性の手を握り締めて、功介の元へと駆け寄っていた。
遠く遠く感じたはずなのに、今は手を伸ばせば届く場所にいる事が嬉しく、そのままの勢いで抱きついた。
「私、貴方たちがすごく恋しいんです!このまま三人で一緒にいたいよ……」
自分でも何を言っているのか、よく分からなかった。
記憶がないはずなのに、ただ目の前の二人がとても恋しくて仕方ない。
「頑張って思い出すから……側にいてよ」
風音の切実で胸を裂かれるような願いに、功介と女性は瞳から涙を零し、風音を抱き締めた。
「すまなかった。寂しい想いをさせてしまって。俺も……葉子と共に君の成長を見守っていたかった。本当に……すまない」
「ごめんね、一人ぼっちにさせてしまって。でも、貴女はもう一人じゃない。貴女自身の力で、大切な人と縁を結んだでしょう?私にとっての功介さんみたいに」
優しく頬を手で包み込まれ促された先には、仲睦まじく寄り添う二人の姿があった。
「この人はたくさんの過ちを犯した。決して許されることじゃないわ。でもね、私はこの人と最期まで共にいると決めたの。貴女にとって、最期まで共にと願う人は誰?」
涙に濡れた二人の表情は悲しげだけれども、笑顔を向けてくれている。
(共にと願う人……?)
(風音!死ぬんじゃねェ!戻ってこねェかァ!)
「はっはい!実弥君、すぐに戻ります!」
突然頭に怒声が響き渡り、反射的に返事をした瞬間、怒声の人物の記憶が暴風のように押し寄せ……そして体がふわりと浮き上がり、目の前の二人の記憶も、優しい風に誘われるように舞い戻る。
「お父さん!お母さん!一緒に……」
「風音は戻りなさい。そして、生まれ変わった暁には……許されるなら、俺たちの子供として」
「生まれてきてね。風音ちゃん、どうか幸せに。私たちはずっと愛する貴女の幸せを願ってる」
寄り添い笑顔を向けてくれる二人の姿を目にした瞬間、風音の瞳から行く筋も涙が零れ落ちた。