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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


違う
そうじゃない
謝ってもらいたかったのではない

そう言葉にしたかったのに、嗚咽が邪魔をして言葉が出てこない。
ただただ今は包み込んでくれている優しい温かさにすがっていたく、女性の背に腕を回して着物を握りしめる。

「記憶はね、簡単に真っ白にはならないわ。貴女の能力の使用過多に、脳の処理が追いつかなかっただけ。最低限生きるために、過去の思い出に一時的にさよならしているだけよ。記憶は消えていないから、心配しなくていいよ」

今もなおすがりついてくる風音の体を優しく離し、涙に濡れた翡翠石のような瞳を覗き込む。

「あの人も言っていたでしょう?心配ないよって。それよりも……早く戻らないと、貴女の大切な人からひっぱたかれるんじゃない?」

「私の大切な人……にひっぱたかれるのは嫌だけど。あの男の人はここにいないんですか?私、すごく会いたいんです」

未だに涙の止まらない風音から紡ぎ出された言葉に、女性は悲しげな笑みを浮かべる。

「あの人は、ここには来られないの。でも……そうね、会いに行ってみよっか!私もあの人の側に行きたい。もう離れたくないから」

風音と同様、目の前の女性も先ほどの男性と会いたいらしい。
二人はどういった間柄なのか、その二人と自分はどのような関係なのか。
聞きたいことは山程あるが、今聞いたとて答えが返ってくる可能性は低いので、一先ず女性の提案にこくりと頷いた。

すると一瞬後、瞬きをするくらいの時間の後に、男性といた真っ暗闇な空間に辿り着き、風音の体がビクつく。
その様子に女性がくすりと笑い、暗闇に向かって呼び掛けた。

「功介さん、お久しぶり!逢いに来ましたよ!」

なんと言うか、物凄く軽い挨拶である。
しかし風音がチラと見た女性の瞳には涙が浮かんでおり、表情は声とは裏腹に哀愁が漂っていた。

そして返ってくるのは、耳が痛くなるほどの静寂。
なんとなく近くに誰かいるように感じるのに、不思議と姿が見えない。

「……いいのかしら?功介さんにとって恥ずかしい事、この子に話しちゃおうかな。ねぇ、聞いて功介さんって」

「言うな言うな!はぁ……俺がそっちに行けないことは知ってるだろ?鬼殺隊でありながら人を多く殺めた俺は……君たちのところには行けないんだ」
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