第26章 宵闇と朝焼け
先ほどは真っ暗闇の中、体の自由がきかなかった。
しかし今は体の自由が利くし、何より辺り一面が美しい景色に彩られている。いつの日か誰かと見たような気がする、金色に輝く綺麗な植物がどこまでも続いている。
「暖かいし、すごく綺麗。どこまで続いてるのかな?このまま進めば、どこにたどり着くんだろ?」
心地よく、心も洗われるような素晴らしい景観。
ずっと居たいような気持ちになる、不思議な場所をあてもなく歩いていると、少し先の人影が風音の瞳に映る。
なぜだかとても恋い焦がれていた人のように感じ、風音は駆け出して、その人影の元へと急いだ。そしてそこに居たのは、翡翠石のような美しい瞳で、優しい笑みを浮かべる女性だった。
「まぁまぁ!こんなに大きくなって!顔なんて私の若い時にそっくりじゃない!」
……優しい笑顔は一瞬で霧散し、満面の笑みとなった女性。
この景色に負けないくらい明るく、心温まる笑顔だ。
「あの!私のことを知っているんですか?さっきは男の人が話し掛けてくれて、体を動かせるようになったんです。その人も私のことを知っていたみたいなんですけど」
「知っているわ。貴女のことも、その男の人のことも。でも、その前に思い出すべき人が居るでしょ?私たちのことは、その人を思い出してからでいいの」
なぜあの男性も、目の前の酷く恋しく感じる女性も、自身が誰なのか教えてくれないのだろう?
これほど恋しく感じているのに、なぜ……と悲しみやもどかしさ、思い出せない悔しさに、風音の瞳に涙が浮かぶ。
「だって何も思い出せないんです!貴女たちのことも、私が思い出すべき人のことも!私のことすら何も分からない!気がおかしくなりそう!貴女の側にいたい……一人にしないで……置いていかないで」
涙が頬に零れ落ちたと同時。
ふわりと優しくも、幾度となく求めていた気のする温かさに、風音の体全体が包み込まれた。
「今はとても心細くて不安だと思う。でも、貴女はここにいちゃいけないわ。まだ私たちは貴女の側にいてあげられないの。ごめんなさい……寂しい想いばかりさせてしまって……貴女には我慢ばかりさせてしまった」