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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


(この紙切れ……私がこうなることを見越して、きっと私が書いたものだよね?実弥君……狂おしいほど思い出したいのに……眠いなぁ)

今の風音は意識を保つことが精一杯のようだ。
辛うじて五体満足ではあるが、それだけ。
身に纏っているものはもちろん、全身傷だらけで、出血も酷い。何度も吹き飛ばされたので、骨もいくつか折れているだろう。
しかし体以上に深刻なのは、脳の損傷。

記憶障害が起こっているということは、脳に何らかの異常が現れたということだ。しかし記憶を司っているであろう脳の損傷具合を知る術も、知ったとて治療する技術があるわけもない。

愈史郎が今出来ることは、風音の止血を行い、怪我を治療することと、声を掛け続けることくらいだ。

「寝たら死ぬぞ!絶対に目を閉じるな!」

(寝たら死んじゃうの?でも、すごくすごく眠い……側に行かなきゃいけない実弥君って人は……無事なのかな?私、もう動けないけど、鬼はもうすぐ塵になるみたいだし……殺の羽織の人との約束は守れたよね?死にたくない……けど、眠いな)

眠ってはいけないと理解出来ても、体がいうことをきかない。
かつての記憶など持ち合わせていないが、きっとこの体は過去にないほど酷使したはずであるし、血液不足と極度の疲労が重なって眠気が飛んでいってくれない状況だ。

「おい、聞いているのか!生きろ!」

(うん……生きるよ。でもね、少しだけ休みたいな)

厳しいながらも優しい青年の声に混じり、誰かの名前を叫ぶ別の青年の声が、風音の耳に届いた。
誰が誰の名前を呼んでいるのだろうかと、声のする方に視線だけ向けて確認すると、何故か一際、風音の目を引いた、殺の羽織の青年が走り寄ってくる姿が目に映った。

「風音!あと少しで塵屑野郎が消える!アイツらが足止めしてくれて……だから死なないでくれ!」

青年……実弥は風音の側に駆け寄り膝を付くと、ゾワリと悪寒がする程に冷たくなった手を握り締める。
いつも吊り上がり気味の目元は、悲しげに歪んでいた。

(鬼は消える……よかった。だから……どうか悲しまないで)

実弥の悲しみに満ちた表情に胸を裂かれたような痛みを感じながらも、風音はついに意識を手放した。
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