第4章 お稽古と呼吸の技
頭の先から爪先まで心地よい温かさに包まれており、あまりのその心地よい感覚が知りたくなった風音は重い瞼を開ける。
すると暗い中でもはっきりと視認できるほど近くに実弥の顔があった。
(わぁぁ!実弥さんのお顔がこんなに近くに!しかも眠っていらっしゃるから、かっこいいのにちょっと可愛い!ん?でもどうして実弥さんが……あ……そうだ、私が約束守らなかったから……実弥さん怪我しちゃったんだった……どうしよう)
目覚めて喜びから一転、風音の心の内は一気に後悔や懺悔に埋め尽くされて沈み、瞳が涙で覆われ流れ落ちていく。
(謝りたいけど……起こしちゃダメだし……でも座りながら寝てるみたいだから起こした方がいいのかな?こんな格好じゃ疲れ取れないよ)
起こすか起こさないか悩んだ挙句、自分の頭を抱えるようにして眠る実弥の頬に手を当てた。
「実弥さん、横になって休みませんか?このままだと……疲れが取れません」
小さな声で呼び掛けると、それに応えるように瞼が震えてゆっくりと開いていく。
しかし焦点があっておらず夢現状態だ。
「ん……あ"ぁ"。そうするわ」
寝惚け眼ながらも起き上がったので隣りのベッドに寝ると思いきや、草履を脱いで風音のベッドに足をかけ、掛け布団を持ち上げて潜り込んできてしまった。
実弥が大好きな風音としては温かさが広がり嬉しいだけだが、次に目を覚ました時に実弥が驚くだろうと思い再び声をかける。
「私の隣りでいいんですか?起きた時……驚かない?」
「驚くも何も今起きてんだろうが。離れたらお前、もっと泣いちまうだろ」
どうやら寝惚けて風音の布団に潜り込んだわけではなかったらしい。
本来なら場所が場所なので隣りのベッドに寝るべきところを、風音が涙を流している姿を見て放っておけず、恥をかなぐり捨て同衾に至ったようだ。
「すみません……私のせいで実弥さんが怪我をしたと思うと……どうしたらいいか分からなくて。本当にごめんなさい……」
瞼をキュッと閉じ震えて泣く風音の背に腕を回し、ほんの少し自分の体に寄せてさすってやる。
「お前が泣く必要も謝る必要もねェんだよ。俺は元々自分の血で鬼を酔わせて頸斬ってんだ。稀血って……知らねェよな?」