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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


上手く受身を取ることが出来ず、顎が地面に叩き付けられてしまった。その影響で脳幹が揺れ、視界と意識が膜を張ったように霞んでくる。
しかもここは崩れ落ちた建物の影となっており、視界はかなり悪い。

(この状況で出来ること……私に出来ることは)

朧気な視界に映し出されるのは、最後の足掻きというものであろう。鬼舞辻が巨大な赤子の姿へと変貌し、鬼殺隊の皆が心から待ち侘びた陽光で、すぐに塵とならないよう緩慢な動きで地底へと潜ろうとする姿であった。

(あと少しなんだ。あと少しで……殺の羽織の人とのお約束が果たせる。私に出来ることは……)

体を動かせず、言葉も発することが出来ない。
皆が懸命に鬼舞辻を足止めしているのに、見るだけしか出来ない状況で出来ること。

一つしかない。

(えっと……確か……こうかな?……うん、出来っ……?!)

「ゲホッ!うぐ……うぅ」

ただ先を望んだだけだった。
この状況下で、少しでも皆の役に立てることは何かを考え、先ほど自身がしていたことを、再現しただけだった。

そのはずなのに、体の奥から不快な鉄臭い液体がせり上がってきて、堪えきれず口から吐き出すしか出来なかった。

「カハッ……どうして……だって、さっきは。ゲホッ」

生理的に涙も溢れ、視界はもう水の中と同じようなものだ。
何も見えず息も満足に出来ず、耐え難い心身の苦しみを発散させようと、無意識に地面を握りしめ、不思議な感触を見つけた。

(紙……さっきの紙かな?でも……もう破れて殆ど……)

「おい、こっちに来い!俺は鬼だからこれ以上外に出られない。影でお前の手当をしてやる」

大切なもののように感じる紙の切れ端をギュッと握り締め、年若い青年の声がする方に視線を動かしてみる。
そうして視線が合うと、青年は無表情のまま風音の肩を抱き、影の濃い方へと移動を始めた。

「珠代様はご無事だ。その……助けてくれて感謝してる。だから、今度は俺がお前を助けてやる」

珠代とは誰なのか、助けたとは何のことなのか、自身のことを鬼だという目の前の青年は誰なのか。
全く何も分からないが、言葉を発することが出来ない状況なので、横たえさせてもらった状態のまま、手を開いて紙に書かれたことを確認した。

(実弥くんの側へ……)
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