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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


あれから、どのくらい経過しただろうか。
幾度となく傷を負わされ、鬼舞辻の体を斬り、吹き飛ばされては、また渦中へと舞い戻る。

この場にいる全員にとって、果てなく永遠と感じる時間が経過したはずなのに、陽光は山間から僅かに漏れる程度だ。

そのような最悪の状況の中で、皆の怒りを極限に達せさせる事態が頭の中に流れ込んできた。

「囲めェ!逃がすなァ!」

声を発した実弥のみならず、皆の頭に流れ込んできたのは、鬼舞辻がこの場から、仲間たちの屍を踏み付け逃亡する未来の光景。
その光景を頭の中で見た者たち全員が技を放ち、鬼舞辻の逃亡を阻止するために動き出した。

例え頭の中にそれ以上、先の光景が流れてこなくなろうとも、悲願の達成のために、誰一人として少女の姿を確認する余裕すらない。

(あと少し……踏ん張らなきゃ。その為に、私はここで適宜動けるように)

もうどこが痛むのか分からない。
体は大小様々な裂傷、擦過傷で覆い尽くされているし、頭は割れるほど痛い。拭う余裕のない現状で、鼻から流れ落ちる血は止まることもなく、顎を伝って地面に血溜まりをつくる。

そんな風音は無意識のうちに皆との共有を遮断し、何故か目を引く灰色の髪の青年の先を望む。

「緑の羽織の子が、鬼を建物に磔にする。あとは私が動けば、殺の羽織の人が動いてくれる」

鬼舞辻の悪足掻きに顔をしかめ、先ほど見た光景になった直後、風音は動き出した。

「夙の呼吸 玖ノ型 星の入東風」

記憶から零れ落ちた、風音の切なる願いが込められた技名を紡ぎ、磔にされ窮地に立たされた鬼舞辻の容貌が化け物のように変化した瞬間、炭治郎を食いちぎるはずだった醜いモノを、荒々しい風と共に切り落した。

「竈門、冨岡ァ!絶対逃がすんじゃねェぞ!何が吹き飛ばされようと、絶対に逃がすなァ!」

炭治郎の加勢に実弥と義勇が加わり、皆がその合間を縫って技を放ち、いよいよ鬼舞辻の足止めが叶うも、風音は悲壮な表情で三人の元へ駆け寄る。

「夙の呼吸 陸ノ型 紗夜嵐・改!」

一人の技で、今から襲ってくるであろう衝撃に耐えられるのか。
せめて皆の五体を守れるだろうか。

そんなことを考えていた風音の体は、まるで紙切れの如く意図も簡単に吹き飛ばされ宙を舞い、地面に叩き付けられた。
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