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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


「姐さん……どうなってんだよ?!親父、お袋!」

柱稽古が始まるとほぼ同時に、藤の花の家紋を賜った、あの青年の屋敷内。青年の焦燥を含んだ叫び声が響いたのは、居間と思われる広い部屋。そこには例の青年と、風音の父である功介に命を助けられた、青年の両親であろう人物二人の姿も一緒だ。

「どうなっているも何も、戦ってくださっているのですよ!記憶が無くなろうと、どんな傷を受けようと。人の……見ず知らずの人々の幸せを切に願い、戦ってくださっているのです」

青年の母と思われる女性の、静かながらも強く、しかし震える言葉に部屋が静まり返る。声音と同じく体を震わせる女性に、青年の父と思われる男性が、そっと女性の肩に手を添えて寄り添う。

「んなこと……分かってる!でも姐さんの記憶無くなっちまうし、ここの家で一緒に飯食った奴らも、数え切れねぇくらい死んじまった!ちょっと前まで……笑ってたんだぞ」

青年の声も徐々に力を失い、母と同じく震え、見開かれた瞳からは幾つもの涙が零れ落ちた。

「姐さん、最後に会った時は笑顔だったんだ。鬼を殲滅したら、また会おうって言ってくれて……こんなの、あんまりだろ。残酷過ぎるだろ!」

青年一家も、不死川邸にて二人の帰りを待つ男性と同様、決戦開始後にやって来た、言葉を話す不思議な鴉から風音の予知能力を聞き、そしてその代償の果てを聞かされた。

無情な現実に打ちのめされたかと思えば、更に無情な状況を伝えられ、鎹鴉はもちろん、青年一家も肩を震わせ、涙が瞳を覆う。

「こうして悲しむ人がいなくなるように、鬼殺隊の方々は戦ってくれているんだよ。理不尽な死を眼前に突き付けられても、立ち止まることすらせずに。本当に……悲しいほどに強く優しい方々だ」

青年の父の、穏やかながらも悲しみの含んだ声音に、青年は瞼を強く瞑り項垂れた。

「神様、どうか姐さんと兄さんを……これ以上鬼殺隊の人を連れて行かないでくれ。優しい奴らを……連れて行かないでくれ」

神に祈ったとて願いが届くなど、虫のいい話あるわけないと、青年だって理解している。
だが、数日前まで笑顔であった者たちの姿を思い浮かべると、願わずにはいられなかった。
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