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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


パシッ
と肌を叩く音が辺りに響いた。

「テメェは戦場で大人しく出来るような女じゃねェだろ!しっかりしねぇかァ!」

風音の目の前にしゃがみ込んだ柱の一人、風柱の不死川実弥が声を張り上げ一拍の後。
隠たちが慌てふためきながら2人を物理的に引き離そうと動き出した瞬間、皆が動きを止めた。一人を除いて。

その一人とは、先ほどまで一寸たりとも微動だにせず、地面に座り込んだままだった風音だ。
視線は地面へと、次に左の指先がピクリと動き、薄汚れてしまった紙へと手を動かして、器用にも片手で開き中を確認。

「目の前の鬼の滅殺
陽光が差し塵になるまで足止め
日輪刀で斬り続ける……日輪刀……」

そして右手が、地面に突き刺さった日輪刀の柄を強く握りしめたと同時に、独特な色を放ち始めた瞳の中に実弥を映した。

「鬼とは、あの化け物のことですね?」

記憶は戻っていない。
実弥に向けられた言葉がそう物語っている。
だが生命活動を正常に取り戻し、今やるべき事を再確認する風音に実弥は笑みを浮かべて立ち上がった。

「正確には塵屑だがなァ!風音、何も考える必要なんざねェ……思うままに斬り刻めェ!」

「はい!塵に成り果てるまで斬り刻みます!」

記憶が戻っていないにも関わらず、いつも通り鬼の殲滅を誓った風音は、記憶がなくなったのは思い違いなのではないか?と錯覚するほど、いつも通りの速度で正確に、実弥と共に呼吸の技を繰り出した。

「夜明ケマデ後十分!後十分!」

夜明けまでの時間を告げる鎹鴉の声が皆の耳に届くと同時に、頭の中に心強く安堵をもたらす光景が流れ込む。

「あんま無茶すんなよ、跳ねっ返り!次止まりやがったら、引っぱたくだけじゃすまねェぞ!」

「痛いのは嫌なので止まりません!あと十分はどうにか持ちこたえます!」

いつも通りのようで違和感のある二人の掛け合い。
しかし今は二人に駆け寄って寄り添うことなど、してやれる状況ではない。

あと少し。
あと十分で夜が明け、鬼殺隊の悲願を成就出来るのだから。
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