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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


「消えちまったはずだ!こんな塵屑野郎のせいでなァ!」

実弥の叫びは全員の耳に届き、柱や剣士たちは胸の痛みを堪え眉根を寄せて……鬼舞辻は厭な笑みを浮かべる。
戦いの最中にも関わず鬼舞辻の勝ちを確信したようなその笑みに、全員の怒りは頂点に達し、攻撃する速度と威力が上がった。

「もうじき陽が昇る!不死川、風音の元に行ってくれ!」

「あと少しでカナヲが到着します!カナヲと入れ替わって下さい!どうか風音ちゃんを死なせないで!」

声を上げた杏寿郎としのぶは、猗窩座戦の前に風音の記憶のことを知り胸を痛めた二人だ。
それからも続々と皆から風音の元へ送り出そうとする言葉が掛けられるが、実弥は戦闘から逃れることを躊躇った。

「言っただろうがァ!俺はあいつが駄々こねねェ限り側に行けねェんだよ!今ここで俺が抜けちまったら……」

「持ちこたえてみせます。私が不死川さんの代わりをつとめます!」

実弥の前にふわりと舞い降りたのは、柔らかながらも鬼を殲滅するための花の呼吸の技を放つカナヲだった。
柱である実弥より力は劣るものの、上弦の弐との戦いや今現在、鬼舞辻との交戦を見る限り、短時間であれば持ち堪えられると確信を持てるほどに天賦の才に恵まれた少女だ。

そんな少女に心の中で礼を告げて、実弥は地面に転がる風音の日輪刀を拾い上げ、踵を返す。

そうして目に映ったのは、隠たちに肩を貸してもらってもなお、そこから全く動こうとしない空虚な瞳をした風音の姿だった。
先ほどまでと全く異なる、何も感じることも出来ず何も言葉を紡げない風音の元へ辿り着いた瞬間、まるで目を覚まさせるかのように、柊の葉を模した鍔の日輪刀を地面に突き刺してしゃがみ込む。

「これがお前の駄々ってことでいいんだよなァ?」

いつもすぐに返ってくる返事は、やはり返ってこない。それどころか実弥の姿さえ瞳に映っていない。

(戦いたくないんじゃねェ……もう何も分からくなっちまった)

辛うじて生きているだけの風音の手元に視線を落とすと、土や血で所々汚れた紙が落ちていた。これは記憶が無くなった際に風音の指針になるものを、風音が自らの血で書き記した紙だ。
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