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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


隠たちの拘束から逃れようともがく力が、一気に抜けた。

隠たちが、その様子を不思議に思い瞳を覗き込むと、そこには何も感情を映さない、空虚な瞳があるだけだった。

「……柊木様?どうされましたか?」

「あ……なぁ、おい。さっき柊木様さ、言ってなかったか?戦い方忘れたくないって。もしかして、記憶がなくなってるんじゃ……」

風音が先を見る能力がある事は、鬼殺隊に属する者皆が知るとこと。柱稽古の際に、一般剣士たちへと開示され、それが鬼殺隊全体に広がったからだ。
その能力で見た光景を、望む者たちの頭の中へと送ることが出来ることも、その副作用が睡魔や、今は克服したらしい感覚の共有であることも、もちろん知っているが、過度の使用により記憶がなくなることを知っているのは、極わずかな者たちのみ。

今この場にいる隠たちは当然の如く知らなかった。だが、目の前にある空虚な瞳を見れば、風音の先程の言葉と合わさり、確信に近付けるというもの。

「そんな……柊木様、返事をして下さい!息……息はしてるか?!」

「息は辛うじてしてるぞ!とりあえず、柊木様を安全な場所に移動させよう!さぁ、柊木様。我々と共に……え?」

力の抜けた華奢な少女の腕を引っ張るも、まるで地面に縫い付けられたように全く動く気配がない。体に負担がかからないよう肩を貸して立ち上がることを促しても、全くもって動かないのだ。

このままここに居ては危険なので、どうしたものかと隠たちが戸惑い顔を見合せると、突如として金属製の物が地面に突き刺さる音と共に、一人の柱が風音の前に現れた。

そして、その金属製の物が触れて切れたのだろう。
風音の手首に巻かれた紙が地面にぱさりと落ちた。





時を少し遡り、風音の記憶が全て流れ落ちた時。
鬼舞辻と戦闘を繰り広げていた、柱や剣士たちの体がピクリと反応した。

「嘘だろ……風音、記憶全部なくなっちまったのか?!」

「不死川さん!風音ちゃんの記憶なくなったの?!先の光景が……」

実弥の呟きは誰にも聞き取れる状況ではなかったが、この場で戦闘を続ける者たち皆が確信を持ってしまった。
その例に漏れず無一郎も確信を持ったものの、余りにも無情な現実に実弥へと問い掛けたのだ。
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