第26章 宵闇と朝焼け
風音を助けてくれた剣士二人はもちろん、柱や弟子や継子たちは、鬼舞辻が放った衝撃から間一髪で距離をとる事が出来た。
事前に風音から先の光景が送られていたことが、功を奏したのだろう。
だが被害が皆無という訳にはいかなかった。
一般剣士や、常日頃から剣士たちと行動を共にし支えてくれていた鎹鴉、隠に至るまで多くの鬼殺隊の者たちが被害にあった。
血を流し力なく地面に横たわる者たちを目にした風音は、痛む心を無理矢理に奮い立たせ、戦い続けている柱たちを見据えながら言葉を紡ぐ。
「危険を顧みず助けて下さり、ありがとうございます。さぁ、私たちも戦闘に……ーー?!」
戻りましょうと続けたかったのに、次に出たのは血と体中と頭の激しい痛みだった。
「風音ちゃん!何が……か、隠の人!風音ちゃんを頼みます!」
「お前ここで休んでろ!あんな奴、俺たちが倒してやる!待っとけ!」
黄色い髪の少年と猪頭の少年……善逸と伊之助は苦しむ風音を、辛うじて無事だった隠たちに引き渡し、戦いの場へと身を投じに行ってしまった。
そうなると風音の中には焦燥感が募る。
「待って……置いていかないで。ゲホッ、私もまだ戦えます!」
「柊木様!動かないで下さい!もう貴方の体はとうに限界を超えています!これ以上戦うと死んでしまいますよ!」
「私は柱なのですよね?柱って簡単に戦線離脱なんて許されないはずです!柱は……この組織の要なんですよね?!」
言葉と同様、体もこの場にいることを拒むように、隠数人に押さえつけられているにも関わらず皆の元へと駆けつけようともがく。
その瞳は焦燥感と悲しみで満ち溢れており、隠たちが胸を痛めるほどだ。
「消えてしまう。戦い方も……実弥君のことも……やだ、まだ消えないで!私も戦う!忘れたくない……離して下さい!記憶が消え……」
サラサラと下へ流れ落ちる砂時計の砂のように、風音の記憶から全てが消え去っていく。
残り僅かな、この場で何があろうとも失いたくないモノすら、無情にも流れ落ちつつある。
「イヤ……消えないで。戦い方忘れたくない……実弥君の事だって……」
何がなんでも忘れたくないと強く願った。
どんなに苦痛を伴おうとも手離したくなかった。
……だが、現実は優しくなんてなかった。