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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


三毛猫を可能な限り地面に近い場所で解放し、激戦区から離れるように駆け出す姿をチラと確認。
その後は、ほぼ無意識に左前腕を深く切り付けつつ、鞄の中から不思議な紋様の描かれた紙を掴み取り、高く跳躍した。

「塵屑野郎、斬り刻んでやらぁ!」

「俺かよ!」

聞き慣れた少女の声ながらも、聞き慣れない言葉遣い。
この場にいる実弥以外の鬼殺隊の全員が、実弥が発したのかと錯覚する言葉。
記憶を無くしたはずの風音の、記憶の根底に焼き付いた言葉。

その言葉を体現するかのように、手に握り締めていた紙を空中へ放り投げ、風音は一枚の手元に残した紙を額へ貼り付けながら鬼舞辻と間合いを詰めて、触手を切り刻む。

「死に晒せ、塵屑野郎」

柱たちにこの言葉が耳に届く頃、誰しもが動きを止めることなく、ヒラヒラと空中を舞う紙を素早い動きで掴み取り、それぞれが技の構えを取った。

一方風音はと言うと、柱たちが構えた事など意に介さずに、日輪刀を地面へ落として触手を渾身の力で握り締める。

「蝿の分際で……」

「蝿で結構。苦しんで消えちまえ」

馬鹿の一つ覚えというものかもしれない。
だが記憶の大半を失った風音には、一つ覚えも何も無い。
ただ自身の血が目の前の化け物にとって、有害なのだと先の光景から導き出しただけ。

再生しようと蠢く触手の傷口へと、自身の傷口を押し当てた。
言葉を発してから一瞬後、風音の血は鬼舞辻の体内へと流れ込み、体が僅かにふらつく。
そこへ更に追い討ちをかけるように、鬼舞辻の体に柱や継子、弟子たちの技が放たれた。

しかし鬼舞辻が黙ってやられてくれるわけもなく、報復として放った人の目で追うことの叶わぬ未知の衝撃は、この場にいる全員に襲い掛かる……はずだった。
それは鬼舞辻の側にいた風音にも例外なく襲い掛かるはずであったが、風音の体は今し方到着したであろう、猪の被り物をした少年と黄色い髪の少年によって遥か後ろへと退避させられていた。

「お前ズタボロじゃねぇか!」

「遅くなってごめんね!獪岳の……上弦ノ陸から受けた傷の手当に時間かかっちゃって……」
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