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涼風の残響【鬼滅の刃】

第26章 宵闇と朝焼け


なかなか夜が明けない。

記憶をなくした風音には夜の長さなど知る由もないのだが、もうすぐ月が隠れそうなのに、辺りを覆う暗闇に焦燥感がつのる。
そんな中で風音の頭の中に不思議な光景が流れ込んできた。

(なんだか可愛らしい生き物が近付いてきてる?しかも一直線にこっちに向かって来て……え?!)

不思議な光景の先を望むと、先ほどとは違う焦燥感に駆られ、鬼舞辻の攻撃を掻い潜りながら慌てて可愛らしい生き物のいる方へと体を動かす。
すると間髪なく可愛らしい生き物と鉢合わせたので、その子が飛び上がって鬼舞辻に飛びかかる寸前に抱き寄せ、ベルトで体に巻き付けられた硝子製の細い筒を丸ごと拝借した。

「ありがとう!少し怖い思いさせちゃうけどごめんね」

可愛らしい生き物、すなわち三毛柄の猫なのだが、その三毛猫はまるで言葉を理解しているかのようにジッと風音の腕の中におさまり、事の成り行きを見守っている。
どんなに風音が高く飛び上がり体を空中で捻って、筒を放り投げ刀を振り上げてもだ。

「皆さん!それぞれ所定の位置に移動してください!」

三毛猫を抱えたまま、皆に自分が望む場所まで誘導するための光景を送ると、風音は迷うことなく硝子の筒を切り付け、中の液体を皆の体に届くように技で飛ばした。

「待ってたぜェ!おい、風音!テメェの鞄の中見てみろォ!同じもん入ってんだろ!」

「風音、君はこれと同じものを俺たちに被せてくれ!援護に徹底してくれて構わない!」

実弥と、炎を彷彿させるもう一人の青年の言葉に、風音はこの場にいる人たちが今何を振りかけられたのか理解しているのだと分かった。
きっと……いや、間違いなく液体の中身は鬼舞辻の毒を緩和させると事前に知っていたような、落ち着き払った様子である。

そしてそんな全員が一貫しているのは、風音を可能な限り守りながら戦っていること。
記憶の大半を失っていると言えど、今のこの状況は風音が望んでいるものではなかった。

「戦います!私だけ援護なんて……一人にしないで!」

皆に先を望み続けている現在、絶対的に確かな存在であるはずの実弥の存在が薄れていく。
それは悲しく辛いことだが、ここにいる誰を失っても後悔する先しか浮かばず、皆の想いとは反対の行動に出た。
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