第25章 悲色と記憶
なかなか日が昇らない現状、風音のままならない状況に胸を痛めているのは、実弥たちだけではない。
「鴉君……夜が明けるまでまだ時間がある。俺が急いだとして、夜明けまでに風音ちゃんの元に辿り着けるかい?」
「……恐ラク不可能カト。ココカラデスト、柱デナイ限リ夜明ケマデニ、現地ヘ到着スルコトハ不可能デショウ」
もう幾ら涙を流したか分からない。
瞼が重くなるほどに涙を流した後、風音の父親の友人である男性は鎹鴉に問い掛ける。
しかし現実はそう甘くない。
刀を握ったことすらない自分は、戦いの役に立てない。
それならば、せめて戦いが終わった後に支えてやりたい。
記憶を失くし不安になるであろう風音の支えになりたい。
そう思って問い掛けたのだが、返ってきた言葉は予想通りのもので、男性はサチに頭を預けるだけに終わる。
「あんまりじゃないか……どうしてあの子が苦しまなくちゃならない?若い身空で大切な人を沢山亡くし……これから実弥君や大好きな人に囲まれて幸せに過ごすべきなのに……戦いが終わっても、記憶がなければ苦しむだけだろ」
震えた悲しい声が部屋に響くと、サチも瞳を揺らせて視線を畳に落とす。
サチもサチで何か思うことがあるのかもしれない。
「人の幸せを願える子たちは、幸せに過ごすべきなんだ」
「…………夙柱様ハ……鬼殺隊隊士ハ数多ノ幸セナ未来ノタメニ、戦ッテイルノデハナイデショウカ。苦シムタメニ戦ッテイル者ハ、イナイハズデス」
流暢に言葉を話す鎹鴉に男性が視線を向けると、まるで自分もそうだと言うように胸を張る姿が目に入った。
その姿が健気であると共に、懸命に悲しみを堪えるように小さく体を震わせる姿に目元が緩む。
気丈に振る舞う鎹鴉をそっと掬い上げ、胸の中におさめた。
「そうだね。悪かった……辛いのは俺じゃないよな。駆け付けてやれないのは心苦しいが、最後まで見守ろうと思う。どうか無力な俺に力を貸してくれるかい?」
小さな震えは男性の温かさに徐々におさまっていく。
一人と一匹と一羽は身を寄せ合い、熾烈な戦いを続ける若者たちの無事を懸命に祈った。