第25章 悲色と記憶
風音が記憶を大量にこぼれ落とした頃、実弥たち柱は次々と自分たちの前に飛び込んでくる剣士たちの血の色を見ていた。
「お前ら先見てんだろ!何で飛び込んでくんだよ?!」
実弥たちは対策を練っていた。
剣士たちが飛び込んで来ないよう、風音が剣士たちに先を送る。
鬼舞辻から放たれる攻撃は、実弥たち柱に送られる風音からの光景でいなし続ける。
それでも避け切れない攻撃は出るものの、致命傷となり得る傷を防ぐことは出来るはず……だった。
それが現在では、飛び込んで来た捨て身の剣士たちのお陰で、今の攻撃による傷は一つも付いていない。
まだまだ続く鬼舞辻との戦いで、傷が少なくて済んだ状況は有利に働くに違いないが、心的に柱たちを痛め付ける。
「見て……ました。けど……立ち止まるなんて出来なかったんです」
実弥に向かっていた攻撃をその身に受けた剣士は、刀を振るい続ける実弥の耳に僅かに聞こえる声で答えた後、動かなくなってしまった。
(死んじまったら元も子もねェだろ!……何のためにお前らが死ぬ未来を何度も見たと……)
「夙の呼吸ーー」
胸の痛みを胸の奥に押し込んでいるところに、今の状況を嘆いているであろう少女の声が実弥に届く。
そちらにチラと目をやると、不安げに揺れる瞳に涙を溜めた姿が目に入った。
その少女、風音の瞳の色は相変わらず独特な色を放っており、今風音の中で何が起こり何を感じているのか、不安げな瞳から即座に読み取れた。
「風音!」
技を放ち終え新たに技を、と構えた風音の腕を引っ張り、後方へ跳躍した。
それと入れ替わるように炎のような羽織と、蝶の羽を模した美しい羽織が駆け抜けていくのを見送ると、風音を自分の方へと向き直させる。
するとキツく一度瞼を閉じ、次に瞳が姿を現した時には、不安げな色はなりを潜めていた。
「実弥君……私、最後まで戦うよ。技も鬼舞辻が多くの命の仇だってことも忘れてない。実弥君のこと、柱の皆さんのことは覚えているから、まだ戦える」
「……あとどれ位耐えられる?あと」
「アト一時間!夜明ケマデ一時間!」
実弥の声を遮ったのは夜明けの時を告げる鎹鴉。