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涼風の残響【鬼滅の刃】

第25章 悲色と記憶


どうにも弱まらない勇の手の力に、どうしたものかと、はやる気持ちを抑え考えた一瞬後。

頭の中でブツンと、聞こえてはならないであろう音が響いた。

「……貴方はいったい……」

どなたですか?

問いかけようとした言葉は即座に飲み込んだ。

目の前の青年の表情が酷く悲しげに揺らいだからである。

「風音……記憶なくなってんのか?」

「記憶……そうだ。戦わなきゃ。まだ終わってない」

先を見る代償として、風音は多くの記憶をつい先程零れ落とした。

悲しみに脱力する目の前の青年のこと。
実弥や小芭内、杏寿郎、天元との合同任務のこと。
刀鍛冶の里で皆と協力して上弦の鬼を倒したこと。

そして今、こんなにも凄惨で熾烈な戦いの場で自分が命を落とさず、刀を振るい続けられるほどの力を、どのようにして身に付けたのか。
つまり日々、実弥から課せられた鍛錬をこなしたことや、柱稽古を行ったことが頭の中から消え去った。

それでも今何をするべきなのかは忘れなかった。

「ここで攻撃の機会を伺っていてください!私は向かいますね」

忘れてはならない存在のはずの青年の力が弱まると、風音は拘束から逃れ、痛みを堪えたような表情に笑みを返して剣士たちの後を追った。

その姿を見送った青年は苛立たしげに地面を拳で叩き付け、背後からやってくる剣士たちへと向き直る。

(俺ら剣士たちの命守ってくれるための対策……信じるしかない。これ以上他の奴らの命も、風音の記憶を失わせないために)

青年の静かな決意は、柱たちはもちろん、風音にも届いていない。



その頃、風音は柱たちの咄嗟の機転によって、剣士たちの犠牲を最低限に抑えている姿を目にしていた。

(すごい……剣士たちの合間を縫って技を放ってる。……続いて剣士が来る気配もないし、今は実弥君たちに送ることに集中しよう)

全員の命を救うことは不可能だと理解していても、理不尽な取捨選択をしなければならない現実に胸を痛ませながら、剣士たちとの共有を断腸の思いで断ち切る。

「はぁ……夙の呼吸ーー」

くっきりと痣の浮き出した腕を振り上げ、赫刀で技を放った。
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