第25章 悲色と記憶
(無一郎君と悲鳴嶼さん、玄弥さんも合流してくれた。大丈夫、あと少しで杏寿郎さんとしのぶちゃんも合流してくれる。伊之助さんもカナヲさんも……善逸さんも)
今見ている先は何度も柱たちと見たもので、満場一致で回避しようと話がついたものである。
皆が胸を痛めた未来にならぬよう、砂時計の砂のように零れ落ち続ける大切なものを見て見ぬふりをして、声を張り上げた。
「行かないで下さい!自ら命を投げ出すようなことはしないで!対策は練っています、どうか……ーー?!」
もう両親の姿かたちすら思い出せない。
どのように柱たちと出会ったのか、どのようなことをして鬼殺隊に入隊したのか、初任務はどんなものだったのか。
大切なはずの記憶が、時系列に関係なく不規則に失われていく。
柱たちだけでなく、今の風音の状況を知らない剣士たちに、先を送り続けるとどうなるのか……
火照り痛みを伴う頭の中で考えた一瞬。
体が強い力で勢い良く押し倒され、気が付けば地面に張り付けられていた。
不思議とあまり痛みを感じなかったが、反射的にきつく閉じた瞼を開けると、目の前には初めて出来た一般剣士の友達と言える勇の怒り狂った顔があった。
「勇さん、何を……離して!皆が行ってしまう!お願い、離して!」
風音の言葉と突然の攻撃に驚き、ここに到着したばかりの剣士数人は立ち止まっている。
しかし風音が何故あのようなことをしたのか理解した剣士たちは、一人また一人と柱たちのところへと向かってしまう。
その様があまりにも辛く悲しく、全ての力をつかって藻掻くが、どういう訳か勇の拘束する手から逃れられない。
「やめて!行かないで!勇さん、離してよ!」
こうしている間にも剣士たちの悲鳴が響き渡り、濃い血の匂いが充満していく。
柱を守れ
鬼舞辻を倒せる柱や剣士の命を優先しろ
肉の壁になって柱たちに繋げろ
頼もしいはずの言葉なのに、生々しい音や悲しい匂いが風音の胸を締め付ける。
「お願い……もう離して……嫌なんです、死なないで欲しい」
「……理由は分からないけど、根城の中で会った胡蝶さんに頼まれた。君を見付けたら止めて欲しいって!先見るのを止めてくれって!何でか分かんないけど、剣士に先を送るなんてことすんな!柱に送ること優先しろよ!」