第25章 悲色と記憶
どうか優しい実弥の心の負担が軽くなりますように。
どうか悲しみが和らぎますように。
そう願いながら出来る限り穏やかな口調で答えると、ゆっくりとであるが、ようやく風音の体は地面に下ろされた。
「そうかィ。ならいいんだがなァ……まだ目の色は元に戻ってねェ。俺や本部がやめろっつっても全く聞きやしねぇ!光失うような事態になってみやがれ、そん時は頭突きだけじゃすまねぇぞ!」
悲しげな表情から般若の表情へ。
風音にこの表情が効き目皆無と分かっているが、無意識に般若と相成った。
しかしやはり風音の表情は嬉しそうな柔らかな笑みが浮かんでおり、恐れる様子は皆無である。
「目が見えなくなることはないから大丈夫だよ、たぶん!なくなるのが記憶だけじゃなきゃ、割に合わないからね!……あ!実弥君、ほら足元!愈史郎さん特製の紙がたくさん落ちてるよ!拾わなくちゃ!」
なんだか安心出来ない風音の憶測に嘆息をつき、実弥は風音の視線の先を追った。
すると風音の言う通り、愈史郎なる鬼の血鬼術が組み込まれた紙が床一面に広がっていた。
紙には一枚一枚丁寧に見慣れぬ紋様が描かれている。
「未知な能力の代償に対して、割に合う合わねェなんて道理が通るわけねぇだろ……ったく。はァ……確かこの紙、額に貼り付けりゃあ、姿隠せるんだっけか?んで貼ったもん同士なら認識出来るっつぅ便利な紙だったよなァ?血鬼術と言えど使えるもんは使うしかねぇか」
「だって割りに合わないんだもん。それより、実弥君もたくさん拾ってね!愈史郎さんは間違いなく私たち鬼殺隊にとって、心強い仲間だよ!こんな素敵な術を私たちに残してくれてるんだから!たくさん時間を使って、用意してくれた貴重なものだよ!」
一足先に紙を拾い集める風音にもう一つ小さく嘆息をつき、柱合会議の際に見せてもらった先で知った、目の前の貴重で重宝する紙を拾うためしゃがみ込んだ。
「それよりもってなァ……これが貴重な紙ってのは分かってんだよ!もっと自分の体のことに対して危機感持てって言ってんだァ!」
やはり風音は実弥に叱られてしまう。
しかし実弥が怒るのは相手を想っているからこそ。
それを理解している風音は、やはり笑顔を絶やすことなく……せっせと紙を拾い続けた。