第4章 お稽古と呼吸の技
身体的なこと……との言葉に実弥はしのぶから風音に視線を落として小さく息をついた。
「はァ……部屋の外に出るか。どうせ起きやしねェけど、胡蝶の表情的にあんま楽しんで聞ける話でもなさそうだしなァ」
椅子に座り続け固まった体を解すように伸びをすると、実弥は視線のみでしのぶを外へと促し先に部屋を出ていった。
部屋に残されたしのぶは眠り続ける風音の頬に手を伸ばして優しく撫でると、可愛らしい笑顔を向けて一言。
「不死川さん、風音ちゃんのこと愛しいらしいですよ?」
聞こえていたらしい……それを実弥が知ってしまってはへそを曲げると思ったしのぶは、クスリと小さく笑いを零してようやく実弥の待つ廊下へと足を向けた。
「さて不死川さん、あの子は貴方と正反対な血の性質を持っています」
突然の突拍子もない言葉に驚き、実弥は首を傾げる。
「何だァ?どういう意味だよ。アイツも稀血だってのかァ?」
「稀血は本来、鬼が好む血肉をもつ人間に対して使われるので、正確に言えば稀血には当てはまりません。ですがある意味では稀血になるのでしょうね……あの子の血は鬼にとって毒に近い性質をもつようです。勝手に失礼かなって思いましたが、風音ちゃんの血を含んだ布を偶然現れた鬼の顔に偶然押し付けてしまったのですけど、吐血して数秒後に事切れちゃいました」
偶然と言う言葉を強調して何度も言うしのぶの顔は笑顔のはずなのに、実弥にはどうしても笑っていない目が偶然と言う言葉が偽りにしか聞こえなかった。
……実際のところ敢えてした行動なのだろうが。
しかしそれに対して踏み込んだところで何も益になることは起こらないので、そこに触れることをせず先に進める道を選んだ。
「マジかよ……んで、それにたまたま気付いたアイツは棒かなんかで腕を抉って……鬼を牽制してたってのかァ?ふざけんなよ……俺と違って女だろうが……何でそんな血ィ持ってんだよ。なァ胡蝶、その毒に近ェ血ってのは生まれ持ったもんなのか?」
「詳しく調べないと分からないですけど、恐らく先天的なものでしょうね。一年以上毒を毎日欠かさず摂取し続ければ後天的に会得することも可能でしょうが、さすがにそんなことはしていなかったでしょうし」