第24章 予知と鎮魂
「風音サン、力ハ使ワナイヨウニ。皆サンヲ信ジルヨウニ……トノコトデス」
記憶が無くなってしまったと言えど、立ち尽くすわけにはいかない。
この場で実弥に抱きすくめてもらったままではいられない。
優しく心落ち着く暖かな実弥の胸から離れ、小さく息をつく。
「ありがとう、楓ちゃん。可能な限り指示に従います。よし、お待たせしました!もう大丈夫です。今は先を見ていませんし、戦闘力もそのままですよ!行きま……うひっ!」
人の気も知らず気合い満々に走り出そうとした風音の体は、強く手を引っ張られたことによりつんのめる。
そして次に頬を両手で優しく固定され、真剣な皆の瞳に見つめられた。
「えっと……何かついてますか?傷と血以外で」
「目の色、変わってねェな」
「うん。いつもの翡翠色。兄ちゃん、時透さん、悲鳴嶼さん。今のところ約束守ってくれてるよ」
「うーん、でも怪しくない?もしかしたら目の色変えない方法見つけたかもしれないでしょ?」
「ふむ……時透、今は大丈夫だろう。私に柊木の瞳の色を知ることは叶わぬが、先を見る時の独特の雰囲気は出ていない」
風音の背中を冷や汗が伝う。
しかし冷や汗を流す羽目になったのは正に自業自得。
今までもこの戦でも何度も無茶をしているのだから。
それを自覚しているが、こうも確認され続けると風音だって居心地悪くなるというもの。
柔い力で固定されているはずなのに、いくら引き剥がそうとも不思議と引き離せない実弥の両手から逃れるようと必死にもがきつつ、言葉を返した。
「う、嘘付いてませんよ!今は塵屑野郎も行方を眩ませて、後は猗窩座と上弦の肆……陸と雑魚鬼。戦闘力的に心配なのは猗窩座だけど、まだ会敵したって情報は入ってない。私は皆さんを信じてるんです。信じているけれど、お力添えがしたいだけ」
どうあっても、必要であると風音が判断すれば予知を使うようだ。
そんな風音が皆の次に瞳に映したのは、無情にも手酷く命を摘み取られた剣士たちの姿。
「記憶は戻る可能性あるけど、命は絶対に戻らない。私はね、少しでも皆さんの力になりたい。お日様を鬼殺隊の皆で見たい。その為なら何だってするよ」