第24章 予知と鎮魂

「夙柱様……柊木様ノ記憶ガ失ワレツツアリマス……ドノ記憶ヲ失ッタノカハ判明シテオリマセンガ……」

震える鴉の声に、一人の男性が体を震わせた。

「そんな……記憶がなくなるだなんて。そんな事、一言も言っていなかったじゃないか！君たち鬼殺隊は知っていたのか？あの子が……えっと、先読みの力？を持ち合わせていたこと。それを使うと記憶がなくなってしまうということを」

不死川邸にて二人の留守を預かっている風音の父親の友人である男性は、隣りで大人しく座っているサチの首元に腕を絡ませながら鎹鴉を見つめる。

真剣なその視線に鴉は悲しげに瞳を細めた後、しっかりと見つめ返して答えた。

「先ヲ見ル能力ガアルコトハ把握シテオリマシタ。ソノ代償ガ酷イ眠気ト……見タ者トノ感覚ノ共有ダトイウコトモ。デスガ記憶ニ関シテハ把握シテオリマセンデシタ。恐ラク、不死川様モ把握シテイナカッタハズデス」

鬼殺隊本部が把握していないということは、すなわち実弥も把握していなかったことを意味している。
実弥が知っていれば即座に本部へと知らせ、本人には能力を使わぬよう言い聞かせていただろうから……

「そう……なのか。けど記憶がなくなるなら……これ以上先を見させないでもらえないか？あの子は俺の大切な友人の忘れ形見なんだ！俺の事を忘れるのは構わない……あの子には大切な人たちの記憶を失って欲しくないんだ」

悲しい声音に鎹鴉は何も答えず、ただ静かに視線を床に落とす。

言葉を話せないサチも何かしらを感じ取り、鎹鴉と同じく床へと視線を落とした。

「頼む……これ以上何も失いたくない。風音ちゃんには笑顔でいてほしいんだ」

鎹鴉には男性の想いを叶えてやることは出来ない。
戦闘に関することは本部や現地の柱、剣士たちに一任されているからだ。

それでもこのまま無言を貫き続けることが出来ず、何か励ます言葉をと嘴を開き……体を大きく震わせる。

そして今入ってきた情報を、痛む胸をおして伝えた。

「柊木様……オ父上ノ記憶ヲ失ッタヨウデス」

辛く悲しい現実に男性の瞳から涙が零れ落ち、視線を床に落としたままのサチの体の上へと流れた。