第24章 予知と鎮魂
時を少し遡った鬼舞辻が去った後の通路で、蹲り続ける風音の身を皆が案じていた。
「もういい……悪かった。力を貸してくれなんて言って悪かった……もうやめてくれ!」
(あぁ……嘘着いたらダメだ。こんなに心配してくれてる実弥君たちに嘘なんて着けない。でも……)
実弥を筆頭にこれ以上先を見ないよう風音を皆で説得するが、風音は首を左右に振るばかり。
「大……丈夫。痛みは随分と……落ち着いてきたから。ごめんね、皆さんが近くにいなかったから、言っても問題ないって思ったの。こんな時に気を遣わせてしまって……」
「どうして風音ちゃんが謝るんだよ!本当に……不死川さんの言う通りやめてよ!俺たちはもう十分君に助けてもらったから……」
悲しい皆の声に風音はゆるりと顔を上げ、人のために命を賭ける優しい人たちの顔を見回して、ふわりと微笑んだ。
「私は自分自身で決断して、この戦に赴いたんだよ。皆さんより力量が劣る分、先を見る力で役に立ちたい。記憶はね、きっと戻ります。今はまだそこまで先を見る余裕はないけれど、記憶は戻るから」
何も確証はない。
先を見る能力自体が未知な能力であるため、記憶が戻るなど本人とて全く分からない。
それでも先を望むのは、強く優しい人たちに生きていて欲しいから。
風音にとって今まで生きてきた証である記憶は大切で失いたくないものだが、それよりも大切な人たちを失いたくないのだ。
こう言った理由から頑なに皆の説得に首を縦に振らない風音に実弥は業を煮やし、傷だらけの体を抱き留めていた手を片方振り上げた。
それに瞬時に気付いた風音は実弥や皆から離れるように飛び退く。
「実弥君、今頚椎に手刀入れられるわけにはいない。私は戦い方も鬼殺隊の皆さんのことも覚えてる!まだ私は戦えるのだから、皆さんの力にならせてほしい。お願い……」
「記憶なんざ軽いもんじゃねェだろ!全員戦えんのは同じだ!胡蝶に言われたこと覚えてねぇのか?!柱を信じろって言われたんじゃなかったかァ?!」
双方が一歩も引かぬ平行線を辿る言葉の応酬に、一人の柱が間に入ることにより流れを止めた。