第24章 予知と鎮魂
全員の視線が容赦なく風音に突き刺さる。
目の前に鬼舞辻がいることによってすぐに視線から解放されたものの、鋭いながらも悲しみを含んだ視線は風音の脳裏にこびり付いて離れない。
「あの……ごめんなさい!夙の呼吸 陸ノ型 紗夜嵐」
それでも先を送ることを止めず、この場にいる全員の脳裏に先の光景が映し出される。
鬼舞辻を前にして攻撃する手を止められないのと同じように、先の光景を止めるなど風音には出来なかったし、何よりしたくないのだ。
あと少し。
各々が全力で鬼舞辻へと攻撃を放ち、傷を負わせていく。
この場に留まれるのはあと少し。
僅かでも鬼舞辻に痛手を負わせ、後の戦いで鬼殺隊が有利になるように。
「鳴女ーー!何をしている?!蠅共を私に近付かせるな!」
もう時間がない。
鬼舞辻の言葉でそれを確信すると、風音と実弥は同時に皆より前に出て腕を切り裂いた。
そして風音はその腕を横に薙ぎ、鬼舞辻の顔面を赤に染める。
「首洗って待っとけェ!」
「首洗って待ってて!」
同時に飛び出したのは元師弟の息ぴったりな挑発だった。
ぐらりと体幹を揺らし、吐血しながら忌々しげに床に膝をついた鬼舞辻の姿が全員の瞳に映し出されたが、一瞬後には景色が切り替わる。
後に残ったのはどこもかしこも悲しい赤に染まった通路。
それと頭を抱え蹲る風音と、その体を抱きしめる実弥。
そんな二人へと悲しみに瞳を揺らせながら寄り添う無一郎、行冥、玄弥と鎹鴉たち。
「もういい、もう先なんざ見なくていい!何でだよ!記憶なんか今まで……神様お願いだ……もうこいつから何も奪わないでくれェ!」
実弥の悲痛な叫びは確かに風音の耳にも胸にも届いている。
皆が名前を何度も呼んでくれる声ももちろん届いている。
記憶が零れ落ちていくなんて嘘だよ
大丈夫、心配しないで
私は平気だから、どうか悲しまないで
大切で愛おしい人たちに嘘を言ってでも安心させたいのに、頭の中がかき混ぜられているかのように痛み、声が出せない。
出てくるのは実弥や皆の声に何も返せず蹲るしか出来ない、悲しみの涙だけだった。