第24章 予知と鎮魂
不愉快だと言われなくても分かるほどに顔を歪めた鬼舞辻が言葉を発する前に、風音は更に言葉を続ける。
「どうやってあんたが生まれてきたのかも……戦い方も、戦う目的すら剣士たちと戦ってる間に零れ落ちていくんだよ。何もかも忘れて、存在意義すら忘れる」
先読みという異能の力を生まれながらに持つ者で、その異能の副作用に免疫のある風音でさえ、能力を過度に使用した故に大切な記憶を失っている。
鬼である鬼舞辻は再生能力が高いので、過度の使用による脳の損傷で記憶が欠如していくのであれば、容易に副作用を克服するのだろう。
だが風音の能力は未知な部分が大半を占めており、未だにどのような原理で先を見ているのか判明していない。
つまり脳の損傷だけが風音の記憶を蝕んでいっているのではない可能性が大いにあるということだ。
「一人や二人の先を見るだけで、鬼殺隊の動きを把握出来るなんて思わないで!ゲホッ、何も失わず私たちを根絶やしになんて出来るわけないでしょ!私たちの想いは……そんなに軽くないんだ!」
もう戯言など聞きたくない。
そう言うように首を締め付ける力が強まったが、風音の視界の端を黒い影が二つ、目にも止まらぬ早さで駆け抜け、それぞれが鬼舞辻の顔面に深い傷を負わせた。
その黒い影は颯爽と急旋回して飛び出した場所へ戻り、床へ投げ出された風音の両肩に舞い降りた。
「楓ちゃん、爽籟君……ゲホッゲホッ……助けてくれてありがとう。今度は私が守るから、全速力で後ろに下がって?絶対に貴方たちは守るから」
「風音サン……記憶ガ……ハイ、分カリマシタ。私タチハ後ロニ……」
「下ガル必要ハナイ!風音、実弥ニシッカリ叱ラレルトイイ!隠シ事シテタコト、実弥怒ッテル!」
顔面蒼白。
鬼舞辻に首を締め上げられていた時でさえ恐怖が湧いてこなかったのに、爽籟の言葉で全身が恐怖に染まり切ってしまった。
「風の呼吸ーー」
「霞の呼吸ーー」
「岩の呼吸ーー」
本調子でない鬼舞辻の体を切り裂きながら風音の前に姿を現した実弥は、見ただけで怒り狂っていると分かるほどに、体全体から余すことなく怒気を溢れ出していた。
しかもそれは実弥だけでなく……続々と集結した柱たちと玄弥も同じくだった。