第24章 予知と鎮魂
思い出せそうで思い出せない。
鬼にされてしまった人がとても大切な人だったとは理解出来ているのに、顔はおろか名前すら思い出せない。
まるで記憶の一部に靄がかかっているかのように。
「無理に先を見続けた代償……」
しかし今は深く考えるより目の前の戦闘に集中しなくてはと、日輪刀の柄を握り直して通路の床を蹴り上げた。
その際、風音の声を拾ったであろう実弥が僅かに振り返り、驚愕に目を見開いている姿が瞳に映った。
ごめんなさいしないと
塵屑野郎に集中
までは
人の気も知らず呑気なこと言いやがって
と実弥は心の中で思っていた。
しかし
『無理に先を見続けた代償……』
と聞こえた途端、実弥の胸の中が鋭い刃物で滅多刺しにされるような痛みに襲われた。
だがその痛みに身を委ね、風音の側に駆け寄ってやることが出来ない状況になっている。
目の前には触手を再生させた鬼舞辻の一部である肉塊が迫っており、刃を振るわなくては自分どころか風音の身すら危うい状況だからだ。
「クソッ!時透、悲鳴嶼さん!玄弥ー!出来るだけクソ野郎に技放って時間稼いでくれ!風音の様子がおかしい!」
実弥の悲痛な叫びに一番に反応したのは、つい今し方この場に到着した無一郎や行冥、玄弥ではなく、無心で鬼舞辻に技を放ち続けていた風音だった。
「何でもないから気にしないで!夙の呼吸 捌ノ型 葛ノ裏風」
実弥に聞かれてしまい、動揺させてしまったことに後悔した。
確かに記憶の一部が欠如しているようだが、今はそれより優先させなくてはいけないことがある。
その内この場から全員が強制的に退場させられるので、少しでも鬼舞辻に攻撃を与え、復活時の戦力を削がなくてはならないのだ。
「私は本当に大丈夫だから、気にせず攻撃を続けて下さい!」
(ダメだ、絶対に記憶のことは言えない。言ってしまったら、誰にも先を送れなくなっちゃう)
誰もが鬼気迫る表情で一斉に肉塊へと技を繰り出す中、風音はどうにか胸の内で区切りをつけて日輪刀を振り被るが……
「蝿共が……私の周りに集るな」
突如として肉塊から姿を現した鬼舞辻本体からの攻撃を諸に受け、気が付けば通路に叩き付けられていた。
そこには仲間の血だけでなく、自分の血も広がっていた。