第24章 予知と鎮魂
痛みをこらえるような勇の表情や声音に首を左右に振りそうになったが、手を強く握ることでどうにか堪え、真っ直ぐ向き合って答えた。
「鬼舞辻は柱全員で相手取ったとしても、すぐに倒せるような易しい存在じゃないんです。例えば先が見える私が一人で立ち向かっても、十分ももたずに死にます。……ここで私を地に伏せさせることが出来るならば止めません。皆さんでかかって来てくださっても構いません、止まらないのならば、全力で皆さんを回れ右させます」
「分かった……じゃあ俺たちは……」
剣士たちを止めるために日輪刀の刃を裏返し構えた風音に、降参したと言うように肩を落とす勇の横を、数人の剣士たちが通り過ぎた。
柱の指示に背くなんて……と言うより、自分たちの命を最優先に考えてくれている風音に何をするつもりだと止める前に、激しい破壊音が勇を始めとした剣士たちの耳をつんざき、赤い飛沫が視界を彩った。
鼓膜を刺激したのは、技で床を破壊した音。
網膜を刺激したのは、体の至る箇所から飛び散った血の色。
「風音!その傷は……」
勇を含む剣士たちは困惑と焦燥に駆られ、認識出来ていなかったのだ。
風音の体が傷だらけだということに。
しかし風音はそれらの一方に対して冷や汗をひっそり流した。
床を破壊したのは剣士たちを退かせるために敢えて出したものだが、どうやら傷口が開いたことは想定外だったらしい。
心の中で焦りながらも、懸命に平静を装い考えを纏めることにしたようである。
(あぁっ!気が削がれてまた血が!……剣士の人たち、顔色真っ青になってる……うーん、これを理由に回れ右してもらえないかな)
ひっそり冷や汗を流しつつ、こっそり呼吸を整えて止血を行い、小さく深呼吸をして再度剣士たちに言葉を紡いだ。
「これは上弦の壱と弐と戦った時に負った傷です。それぞれ私以外の柱が二人から三人、継子やそれに準ずる剣士が複数人いた状態で負った傷です。それだけの戦力が揃っていたのに、全員が決して浅くない傷を負いました」
ようやく止まった血に安堵した風音の頭に巡るのは、浅くない傷を負った皆の姿と、目の前の剣士たちの先に訪れるであろう凄惨な最期、これから待ち受けている鬼舞辻との戦闘。
頭にこびりついて離れないのは悲しい赤色と悲痛な声ばかりだ。