第24章 予知と鎮魂
風音が指の怪我の縫合を終えた頃、鬼はおぞましい変貌を遂げていた。
「本当に化け物みたいになっちゃった……大丈夫だと思うけど、私も戦闘に戻ろう。万が一のことが起きたら長引いてしまう」
どうにか指を失わずにすんだ風音は日輪刀を床から拾い上げ立ち上がって走り出す。
……その間も頭の中は柱だけでなく、この戦地に訪れている剣士たちの先で満たされており、頭痛や吐き気が襲い続けている。
つい先ほどまで止まっていた血も鼻から再び流れ落ち、風音が通っていく過程を示すかのように、床へ点々と跡を残す。
「頭痛い……はぁ……夙の呼吸 伍ノ型 天つ風」
万が一の事態。
鬼が頸から上を再生して自分たちに再び刃を向ける事態を防ぐために、力の入らない足に懸命に力を入れて飛び上がった。
そして日輪刀を振り切って繰り出された技は、醜く歪にねじ曲がった鬼の左腕に直撃し、ぼとりと床へ投げ出させる。
突然の風音の声、それに加え突然の技の発現に驚いた実弥を含めた四人は一斉に振り返る。
そこで目に映ったのは、空中で体勢を崩した風音の姿だった。
「風音!」
言うが早いか実弥は床を蹴って風音の元へ走り寄り、落ちてくる軽い体を抱きとめた。
「あと少しだ、もういい。俺たちの先見るの止めて、ここで今度こそ大人しく待っとけ。約束出来るな?」
手で流れ落ちていた血を拭い取りながら問い掛けると、風音はニコリと微笑みながら今度こそ頷き返す。
「うん。ここで実弥君たちの勇姿を見守ってるね。大丈夫、ここではもう動かないから。さぁ、実弥君。鬼が復活する前に戻って?実弥君が戻らなきゃ倒せない」
「あぁ……分かってる。すぐに戻るから待ってろ」
再び頷き返してきた風音の頭を撫で床に座らせてやると、実弥はボコボコと頭を再生させ始めた鬼へと向かっていった。
そして頭を完全に再生した鬼へ実弥が刃を振り上げ切りかかろうとした瞬間、鬼の動きが止まり、体が徐々に崩れ落ちていく。
「終わった……誰もいなくならなかった。次は珠世さんを助けに……ーー?!」
上弦の壱を滅し終えたと同時に風音から声にならない悲鳴が上がり、今度は風音の血が辺り一帯を赤く染めた。