第24章 予知と鎮魂
その一瞬後、鬼は体の内側から木の枝で拘束され、風音の口の中に捩じ込まれていた手は風の斬撃によって吹き飛ばされていた。
次に風音にもたらされたのは全身を包み込む暖かさと浮遊感。
言わずもがな実弥が抱え上げて鬼から引き離してくれたのだが、今はその暖かさに安堵している場合ではない。
実弥に地面へと下ろしてもらったと同時に自身の鞘を腰から抜き取り、その先端を鳩尾へと勢いよく突き立てた。
「ちょっと待て!俺が……」
「ぐっ……ゲホッゲホッ!」
実弥の制止を振り切った行動により、ボタボタと口内を満たしていた鬼の血や風音の腹から出た血が吐き出され、地面が赤く染っていく。
そのまま少しの間吐き出した後、頬を強く掴まれ顔を覗き込まれた。
「……鬼にはなってねェな。俺は先に戻る、お前は口ん中濯いでから戻れ。悪ィ……まだ休ませてやれねェんだ」
距離が離れていたので、風音が鬼に何を言われたのか聞こえなかった。
だが風音が涙を浮かべながら
嫌だ、鬼になんて
と叫んでいたのは聞こえていた。
つまり風音は現在、玄弥が放った血鬼術で拘束されている鬼に鬼にされかけていたということ。
本当なら落ち着けてやってから安全な場所で休ませてやりたい。
だが今は風音の気持ちを落ち着けてやる時間も、休ませてやる時間も与えてやれない。
しかしそれは風音だって十分理解している事実だ。
悲しげに眉をひそめた実弥に頷き返し、先に戻ってくれというように血で濡れた手で暖かな胸元をポンと押した。
「鬼になってないなら、私は大丈夫。待ってて、すぐに追いつく……ゲホッ、から。私は大丈夫だよ」
優しい実弥の憂いを振り払うために笑顔を向けると、痛みを堪えるような表情をして、どうにか実弥は風音に頷き踵を返した。
その後ろ姿を見送ると、風音は先程からもよおしていた吐き気を我慢することなく、ひとしきり全てのものを吐き出した。
……出てくるのは血液ばかりで思わず苦笑いが零れる。
「自分の血で口の中濯げちゃった。……塵屑野郎以外の鬼でも人を鬼に出来るなら、私のやらなきゃならないことは絞られる」