第4章 お稽古と呼吸の技
「爽籟!その子供を安全な場所に連れてってやれ!アイツと鬼の場所は分かったかァ?!」
山の中に入り足をしばらく動かしたところで、実弥は爽籟に導かれた子供と遭遇することが出来た。
しかし予想通り風音の姿はそこにない。
「コノ子供ノ話ニヨルト風音ト鬼ハ同ジ場所ニイル!ココヲソノママ真っ直グ進メ!ソノ先ニ風音ガイル!」
爽籟の言葉に頷き返して再び走り出そうと足を一歩踏み出し、そこで動きが止められた。
白い羽織を子供が握り締めたからだ。
その瞳には涙が浮かんでおり、風音が危機的状況にいるのだと嫌でも伝わった。
「お前を助けてくれた姉ちゃんは俺が助けてやる。大人しくここで待ってろ」
「うん……絶対に助けてね。ギュッてしてもらう約束したから」
最後の方はほぼ泣き声になってしまったので、実弥は慰める意味を込めて頭をポンポンと撫でてやり、羽織を握り締めていた手が離れたことを確認して今度こそ足を動かした。
もうそろそろ風音と鬼がいると思われる場所までやってきたが、今まで数え切れないほどに嗅ぎ、その度に胸を掻きむしりたくなる衝動に駆られた匂いが実弥の鼻を刺激する。
「一人が流してる血の匂いかァ?!クソが……間に合ってくれ。目の前で消えねェでくれ……」
焦りと絶望に覆い尽くされたとて匂いが薄くなるわけもなく、早く辿り着きたいと願っている場所が近付くにつれ匂いも濃くなっていく。
「風下だが……どうにか届くかァ?!」
実弥は突如として日輪刀の柄に手を当てて一気に引き抜くとそのまま腕を切り裂き、まるで匂いを上書きするかのように自身の血を流した。
その行為が終わるのとほぼ同時。
ようやく探しに探していた金と黒の髪を持つ少女の後ろ姿を確認出来た。
鬼が振り上げている幹を座り込みながら体を震わせて見上げているので、どうにか生きているのだと分かる。
「塵屑野郎……ぶっ殺してやらァ!地面に跪いとけェえ!」
実弥の大声は鬼には届いたのかもしれないが、全てを消耗しているだろう風音には届かず、実弥の言葉通りに体をぐらつかせて膝を着く鬼を呆然と見つめていた。
そんな風音のすぐ背後まで近付いて負担を掛けぬよう横抱きにしてやり、驚き固まる体をふわりと抱きすくめた。